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エゴイストな夜 side3ー9 【後日編】




***

 そして、また季節は巡り――桜が満開となった頃――
 僕は高校を卒業し、無事に大学へ進学……といいたかったが……
「淡墨桜を見に来れるなんて……嬉しい……」
 桜は少しだけ大きくなったお腹を撫でながら、思い出の地に二人で来ていた。
「やっぱり……大学は辞めるよ」
 桜のお腹には新らしい生命が宿っているわけで、僕は大学に受かったものの辞める気でいた。
「駄目よ、せっかく受かったんだからきちんと卒業して。それまではお兄さんと綾子さんが面倒見てくれるって言ってたでしょ?」
「そうだけど……」
 結局、僕は速水さんと綾子さんにお世話になりっぱなして、あの二人より先に結婚することになる。
 式は僕が卒業してから挙げるつもりだが、籍は旅から戻った時に出しにいくつもりだった。
 体力もついてきた桜はどうしても、淡墨桜を見たいと言って今に至る。
「不思議ね……本当にここから始まったわ」
 淡墨桜は添え木がされてあっても美しく花を咲かせていた。
 桜は少しだけ切なげに瞳を細めるが、あの頃のように悲しみは宿していない。 
「うん、僕はたったの十一歳で……それでも桜と一緒にいたかった」
 僕を救ってくれた桜――あの時に死んでしまったらここにはいられなかっただろう。
 そして生きる道を選んだ僕が、今度は桜を救った。
 僕達はお互いに支え合いつつ今ここに立っている。
 それが、淡墨桜を支えている添え木と桜の木の関係に見えた。
 絶望していた時はそんな風に思えなかったのに。
 桜も静かに見守っているということは、きっと同じような考えなのだろう。
 あの淡墨桜を見ても、もうエゴだけで生命維持をされているとは思っていないはずだった。
「正樹君が言ってくれた言葉で私、生きたいって思ったの。あの頃はもう何度も死んでもいいって思っていたのに」
「僕の言葉?」 
「エゴであの桜は生命維持されているって言ったら……正樹君はこう言ってくれた。あの桜は見てくれる人に笑顔を与えて……必要としてくれている人の為に咲き誇るんだって……」
「僕、そんな臭いセリフを言ったの? 十一歳で?」
 人と言うのはそのような恥ずかしいセリフを簡単に囁けるものかと僕は顔を赤らめてしまう。
「もう、覚えてないの? 私はそれに感激して……私を必要としてくれる人を笑顔にして、その人の為に咲き誇ろうって思ったのに」
「その相手って……」
「ふふふ、内緒」
 桜がいたずらに笑って、求めていた答えを僕に教えてくれなかった。
 それでも僕は信じている。
 桜がそう思ってくれた相手はこの僕だと。
「ねぇ、桜……分かってる? 僕達は命の預け合いをしているんだよ。だから……永遠にいるってことで……それはつまり……」
 僕は少しだけ頬を赤らめながら、まっすぐに桜を見つめる。
「桜、結婚して下さい」
 僕はまだ言っていなかった言葉を――プロポーズを桜にした。
 桜は瞳を潤ませて、嬉しそうに微笑みを漏らす。
「はい……お願いします」
 桜が恥ずかしそうにそう答えを返してくれて、僕は感激で泣きそうになった。
 僕はこの日をずっと待ちわびて、生きてきたといっても過言ではない。
「駄目だよ、正樹君。これがゴールじゃないよ。これからでしょ? 私達はずっと歩いて行くんでしょ」
 桜がすっと手を差し伸べてきて、僕はあの夜のことを思い出した。
 僕は死のうと思った日、同じようにしてくれた桜の手を取り、生の道を選んだ。
 暗闇を二人なら――手を繋いで歩いたなら何も怖くはないと思ったあの日。
 僕は差し出された桜の手を取り、ぎゅっと力強く繋いだ。
 これからもきっと困難や苦難があるだろう。
 それでも僕達は二人なら何も怖くはない。
 僕達はずっと、ずっとこの手を取り合い、一人がつまづいても引き上げて歩いて行こう。
 僕達は微笑みあって、お互いに手を握り締めあった。
 淡墨桜を見てももう、悲しくはならない。
 そのぐらい僕は成長して、この世界に明るい未来を描いている。
 そう、桜と一緒に過ごすという未来を――。
 僕達は青い空の下で誓いあい、お互いの存在を必要としていることを確認しあえることが出来た。
 これからも絶対に揺らぐことはなく――君を幸せにしよう。
 そう思ったのは、淡墨桜が満開に咲いた――美しい春の日のことだった。









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