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エゴイストな夜 side3ー2 【後日編】





  夜は誰にでも訪れ、見たくないものを暗闇で覆い隠してくれるが、逆に醜い部分を浮き彫りにもさせてくれる――エゴなものである。
 って……詩人みたいなことを言ってしまったが、僕ではあまり決まるものではない。
 ただ、弱みを握られた僕は綾子さんから、執拗なアプローチを受けていた。
 毎夜、密会を迫られる始末で――一体何がしたいかが分からない。
「どうしたの、正樹君」
 久々に桜に会って、外の図書室で勉強をしていたのだが、僕の携帯が頻繁に鳴るので気になっているようだ。
「いや……迷惑メールが最近ひどくて」
 間違いではないと思い、僕は桜に気がつかれないように携帯の電源を落とした。
 勉強に集中出来るはずもなく、僕のてのひらにはじんわりと汗が浮かびはじめる。
 安易に綾子さんと御飯に行くのではなかったと後悔するが、今更なのである。
 後悔先に立たず――とはよく言ったもので。
 速水さんに相談しようか、そう思ったもののそれが桜の耳に入るのはよくない。
 図書室も閉まる時間になり、僕は桜の家に送り届けるとキスを軽くした。
「正樹君……寄っていけないよね? 受験生だし、帰って勉強するんでしょ?」
 桜が大きな瞳を向けてきて、僕はこれはお誘いだと心を躍らせてしまう。
「いや、ちょっとなら……」
 そういいかけて、暗がりの向こうに綾子さんの姿を確認してぞっと背筋を震わせた。
「ご、ごめん。桜……家に帰って勉強するから」
「そ、そうだよね……うん、分かった」
 桜は聞き分けてくれるが、僕は早くこの場から立ち去りたくて仕方ない。
 綾子さんに気がついたら桜はどう思うだろうか。
 速水さんの婚約者だから、綾子さんのことは知っているはずだ。
 桜に手を振り、家に入って行くのを見届けて僕は綾子さんの方にのろのろと歩いていく。
「ま・さ・き君、連絡してたのに。ひどいじゃない」
 綾子さんがぽんと肩に手を置いて、ふふ、と艶めいた唇を吊り上げた。
「あの――、綾子さんは速水さんの婚約者ですよね? 僕に何の用事が?」
 僕は心に溜まっていた気持ちを吐き出して、綾子さんの流麗な瞳を見つめる。
「もしかして……お金?」
 教師の給料は低いと噂に聞いている為に、もしかしてその可能性もあると考えられる。
「やだぁ、私が年下にお金を強要するって? これでも資産家の娘なのよ。お金なんて必要ないわ」
 綾子さんはおもしろそうに笑うが、僕はますます納得が出来なくなる。
「じゃあ……何の為に……」
「正樹君が気に入ったから。ね、私の愛人にならない?」
 綾子さんが言ってくる言葉に僕は、はぁと眉をひそめるしかない。
 何の冗談かと思うが、綾子さんは僕の胸を制服の上から撫でてくる。
「あの……そういうことは速水さんと……」
「あの写真……桜ちゃんに見せていいのかしら? すっごく傷つくと思うけどな」
「――えっ」
 そこで始めて綾子さんの狙いが桜ということ知って、僕は顔をしかめてしまう。
 桜を傷つけ、僕を裏切らせるのが彼女の目的。
 速水さんが桜にべったりだから、追い込みたいのだろう。
 それならなおさら綾子さんに近づくのはやばい気がする。
「あの、やっぱりこういうのは……」
「今、抱き締めてくれたら写真は削除してもいいわよ」
「えぇ?」
 綾子さんがそう言ってくるので、これは最大のチャンスだと思ってしまう。
「本当に?」
「ええ、女に二言はないわ。君が可愛いからからかいたくなって」
 綾子さんが写真を画面に出して、削除ぼボタンを見せてくる。
「ね?」
 綾子さんが両手を広げて近寄ってくるので、僕は決心するとハグしているという気持ちで抱き締めた。
 綾子さんが背中に手を回してきてぎゅっと力を入れてくる。
 豊満な胸が僕の胸板で押しつぶされて、嫌でもそこに意識が集中してしまった。
「あの、もうそろそろ……」
 僕は綾子さんの背中から手を放し、一歩引こうとしたが顔を胸に埋められる。
 困ったな――そう思っていると、後ろから声がかかってきた。
「正樹君? 何しているの?」
「え?」
 僕はその声に半身をねじって振り返り、後ろに佇む桜の姿を確認する。
「な、なんで……桜……」
「コンビニに……行こうと思って……」
 僕の頭は真っ白になって、どう説明しようかとパニックになった。
「こ、これは、その……」
「あら、桜ちゃん。こんばんは。相変わらず、可愛いわねぇ」
 綾子さんがようやく体から離れてくれて、にこりと桜に向かって微笑む。
「正樹君……綾子さんと会う為に……家に上がってくれなかったの?」
 桜の顔が見た目にも分かるほど蒼白になり、わなわなと唇を震わせる。
 やばい、やばい、やばい――
「桜、ちが――」
 そういいかけた時に桜は、くるりと振り返って走り去ってしまった。
 僕は結局、桜を傷つけてしまう結果になりどんよりと落ち込んでしまう。
「あら、変なところ見られちゃった」
 綾子さんはくすくす笑うけど、この人の作戦だと分かり僕は眉をひそめた。
「あら、こんな時間。私、速水と会うから。正樹君、待たね」  
 結局、綾子さんに振り回されるだけ、振り回されて、僕と桜の間に亀裂が入ってしまった。
 ああ、僕はなんて馬鹿なんだろう――。
 女難の相でも出ているのだろうか。
 というより、速水さんが綾子さんと上手くいっていないわけがわかった気がした。
 いや、逆に速水さんのような大人の男でなければ綾子さんを上手く操縦出来ないだろう。
 ふと、桜の生命維持を外す時のことを思い出した。
 速水さんは綾子さんと婚約して、桜に嫉妬しているから生命維持を外せと言っていたのだ。
 確かに綾子さんならいいそうだし、速水さんが決断しなくても自分で生命維持を外しにきそうだ。
 なんだか、随分と怖い女の人に目をつけられてしまったと――僕は本当に頭が痛くなった。
 とにかく桜に言い訳しようと電話をかけるが、無視されてメールを入れても返ってこず。
「桜……」
 僕は家に引きこもった桜の部屋を見上げて、少しばかり泣きそうになった。











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