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エゴイストな夜 side3ー2 【後日編】





 やっぱり、僕には場違いだと思ってしまう。
 リード一つ出来ずに、おたおたとしているのだから。
――ああ、そわそわしちゃう
 だけど綾子さんは、平然としていてグラスを持ち上げた。
「はい、乾杯〜」
 綾子さんが上機嫌でグラスを合わせてきて、チン――と高い音が響いた。
 すぐに綾子さんの話が始まるかと思ったが、普通に御飯を食べてワインを煽る。
 これも大人の余裕なのかと思い、僕もそれにならって、御飯をいただく。
 食べたことのないチーズは味が濃くて、僕にはきつく感じた。
――ああ、それにしても凄くお洒落な店
 水槽に泳ぐ魚を見つめていると、つんとほっぺたをつつかれた。
 驚いて振り向くと綾子さんが妖艶に笑いを漏らす。
「若いからハリがあるのね。君もお酒飲んでみる?」
 この人、とんでもないことを言い出すと思ってしまった。
「あの、高校生なので……お酒は無理ですよ」
「ふふ、やだぁ、真面目なのね」
 もちろん僕は断ったが、綾子さんはいたずらに微笑みを漏らす。
 そして、綾子さんはワインを口に含んで、僕に近寄ってきた。
「――ンっ……」
 あっという間に僕の唇は塞がれてワインを口の中に流し込まれた。
――え、嘘だろ……
 その瞬間、綾子さんのぬめついた舌が掠めていき、ぞくりと背中が震える。
 それでも桜以外の人にキスされて――僕はショックを受けてしまった。
 女の子みたいに繊細かもしれないが、僕はかなり落ち込んだ。
 桜を裏切った気持ちになり、肩を落としてしまう。
 綾子さんにとってはただの戯れ程度のことなのだろうが。
――ごめん、桜……
 心の中で謝るが、桜の怒った顔が思い浮かびぶるりと背筋を震わせてしまう。
 こんなこと知られたら絶対に殺される。
「ごめんね、驚いた?」
 綾子さんがくすくすと笑い、艶のある黒髪を掻きあげる。
 綾子さんのこの余裕な態度は年下と思って、舐めている証拠だ。
 だからといって、僕がなんにも出来るはずもなく、顔を俯かせる。
「一度飲んだから、もういいよね? 飲んじゃえ」
 ――綾子さんって教師なんでしょう?
 そう言おうと思ったが、それより早くワイングラスを口につけられ、強引に飲まされた。
「うっ……げほっ……」
 気管支に詰まってしまい、僕はげほげほと身体を折って咳き込む。   
 背中に綾子さんの手が乗せられ、ゆっくりと撫でられた。
 その手つきは背中の筋肉や逞しさを確認するような動きで、僕は身震いがする。
 何か、やばい――。
 僕は雄だというのに、女豹に狩られそうな危機感を覚えた。
 綾子さんが背中をさするたびに、ぞくぞくと震えが走り、脳がぼんやりとしてくる。
 飲んだこともないお酒を飲まされ、酔ってきたのだと思った。
 ワインは口当たりはいいが、かなりアルコール度数が高いと聞いたことがある。
 このように一気に飲まされては頭がふらふらしてくる。
「ねぇ、大丈夫?」
 綾子さんの片方の手が僕の腿の上に乗せられ、さすりはじめる。
「あの、そこは……」
 僕はどんどんと下肢に近づいてくる手を払おうと考えたが、意識が霞んできた。
 気がついたら、綾子さんの手は僕の股間を触っている。
――え?
 さすがにまずいと思ったけど、どんと胸を押されて僕はソファに寝そべってしまう。
 その瞬間一気に酔いが回って、店の高い天井がぼやける。
 そこにゆったりと忍び寄る影が――
 獲物を狙う女豹のように近づいてきて。
「若い匂いがするわ……」
 綾子さんが下肢に顔を埋めて、恥ずかしい部分を嗅ぐ。
――ちょっ、ちょっとそこは
 僕はとにかく焦って、綾子さんを押し止めようとした。
「綾子さん、そんなところっ……」
――匂わないで下さい
「ふふ、正樹君って可愛いんだから」
 綾子さんが密やかに微笑み、繊細な手が腿をさすっていく。
 ああ、そこは、まずい、まずい――まずい
 僕の脳の中にぐるぐると回る、焦る気持ち。
――このままでは僕の貞操が……って、童貞じゃないけど……奪われるっ
 このままでは本当に肉食の綾子さんに狩られてしまう。
 僕は狩られまいとじたばたしたけど、それが余計にアルコールが回る結果となってしまい――
「綾子さん、それだけは……お願いですから……やめて……」
 僕は必死で抵抗の声をあげて、綾子さんを何とか押しのけようとした。
 だけど、情けなくも僕は――そこからぷっつりと意識を失った。




***

「う……ん……いててっ……」
 僕は痛む頭を押さえながら、ゆっくりと目を覚ました。
 白い天井に、白い壁、白いベッドに……白いシーツ。
 そして隣りには、長い黒髪の女――。
 黒髪の女?
 一気に脳は覚醒し、慌てて上体を起こすがずきんと頭に痛みが走って、顔をしかめる。
「正樹君……おはよう……」
「――へっ?」
 黒髪を掻きあげ、綾子さんが寝ぼけた顔でこちらを見上げる。
 駄目だ……心臓が……
 どきどきと早まり、僕は昨日何が起きたかを整理しようとした。
「あ、もうこんな時間じゃない。やばい、やばい、遅刻しちゃう。正樹君も学校行かなきゃ」
 時計を見た綾子さんは慌てて起き上がる。
 上半身、裸の綾子さんを見て僕は慌てて顔を逸した。
「やだ、照れてるの。昨日、あれだけ凄かったのに」
 あれだけ、凄かった――?
 服を着ている最中の綾子さんにちらりと視線を向け、昨日のことを聞いてみる。
「昨日……何が……あったんですか?」
「ひどい、覚えていないの?」
 綾子さんが咎める口調で言い、携帯電話をみせつけてきた。
 そこには僕の上にのしかかる綾子さんとの写真が映し出されていて。
 僕はくらりと目眩がしてしまう。
 嘘だ、嘘だ、嘘だ。
 なかばパニック状態になるが、綾子さんは平然としていて――。
「また、連絡するね――ま・さ・き・君?」
 悪魔の囁きが僕の耳元に聞こえてきて――綾子さんは艶然と微笑んだ。
 僕は女豹――いや、女郎蜘蛛に捕まった気がして、うすら寒さを感じたのだった。 
















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