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エゴイストな夜 side3ー5 【後日編】
僕は家に戻って勉強をしようと机に向かっていたが、やっぱり手につかなくて。
「はぁ……どうしたらいいんだよ」
考えてみれば僕は十一歳の頃に、桜に初恋をしてずっと――桜、桜と桜一筋だった。
ある意味、恋愛経験の少ない僕はこういう時にどうしていいかが分からない。
困った――そう思っていた時に携帯電話のメールが入ってくる。
桜だと思って確認すると、なぜか速水さんから連絡だった。
『今度、桜の家で食事でもどうだい?』
それを見て、速水さんがどうして桜の家で食事を……と訝しく思ってしまう。
従兄弟だから桜の家に都度訪れていることは知っているが、もう後見人にはなっていないはずだ。
ああ、またやきもきとする――速水さんが桜と二人っきりで会うだけでも嫌なのに。
なんだかこれでは速水さんの方が桜の彼氏で、僕をお誘いしてきているようだ。
それでも桜と連絡がつかない僕はこのお誘いに乗るしかなかった。
情けないが速水さんに頼るしかないわけで、僕はすぐに行く、と返信してしまったのだ。
***
今日は桜の家で速水さんを交えての食事の日だった。
気が重い――それでも桜に会う為にはここに来るしかなかった。
だけど、僕は桜の家に来て胃が痛くなってくる。
台所で調理をしているのは、桜だけでなく綾子さんもいたからだ。
なんで、綾子さんまで?
そう考えたが速水さんの婚約者なので居てもおかしくはないだろう。
何となく桜と綾子さんがぎすぎすしているような気がして、僕は帰りたくなった。
「ほら、ワインを持ってきたよ」
速水さんがいかにも高そうなワインをテーブルに置いて、コルクをあけ始める。
その仕草一つが大人で様になっており、僕は何だか疎外感を感じる。
ここには成人していない未成年は僕だけであり、他の三人は大人なのだ。
ということは、桜もワインを飲めることになる。
やっぱり僕は子供で、分不相応なのではと思い始めた。
「ほら、先にこれをつまんでいなさいよ」
綾子さんがワインに合うチーズやサラミをテーブルに置いてくれる。
「正樹君も飲めば?」
綾子さんがちらりと視線を送ってきて、にやりと艶めいた唇をあげた。
「正樹君は、高校生だろ? それに俺は教師だぞ。ワインなど目の前で飲まれたら困る。彼にはミネラルウォーターか、ジュースを頼む」
大人の速水さんはきっちりと断り、しゅっとネクタイを外して襟元を割った。
「済まないね、ネクタイがきつくて」
シャツのボタンを外して息をつく速水さんを見ると、僕は悔しさが増してくる。
はだけた胸元が逞しく引き締まっていて、男の色香がむんむんと漂ってくるのだ。
僕も襟元を開こうかと思ったが、長袖Tシャツだったので無理ということが分かる。
襟首を引っ張ると伸びてしまうし、僕がこんな服を着てきた時点で速水さんと差がついてしまったことに気がつく。
何もかもが余裕で大人――。
僕より上位の雄で――色気がたっぷりとあって、桜の初キスの相手。
もしかして、Hなどめちゃくちゃ上手いのではないかと想像すれば、もっと落ち込んでくる。
いや、絶対に上手いに違いない。
あの綾子さんを満足させられるのだから。
そんな速水さんにかかったら、桜などあっという間に陥落されそうだ。
ああ、嫌だ、そんなの。
ぐちゃぐちゃと考えていたら、テーブルにサラダや肉を置かれて、桜と綾子さんも席につく。
綾子さんは僕の真正面に座り、桜は僕の隣りに腰をおろした。
「じゃあ、乾杯しましょうか。桜ちゃんはジュースにする?」
綾子さんがワインを持ち、速水さんのグラスに注ぎながらそう言った。
「いいえ、私もいただきます」
桜がワインを飲む?
そんなことは初めてで、僕は戸惑ってしまったが、桜が飲みたいなら仕方ない。
飲める年齢だし、僕と一緒の時はいつもジュースだったから。
本当はお酒が飲みたかったのかもしれないと思えば、意思を尊重しよう。
ワインを注いでもらっている桜を見ながら、僕はとても心配になるのだった。
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30 side3−5 end