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エゴイストな私 side2ー1 【桜視点】




  私、滝口桜は家族旅行に行く途中、車の事故に遭った。
 死ぬまでには一度は見たいと両親が言っていた五大桜を見に行く途中のことだった。
 気がついた時は病院にいて、私は慌てて起き上がる。
 周りに両親はいなくて、病院内を駆け回った。
 看護師さんに、お医者さんに話かけても誰も答えてくれない。
――どうして、みんな聞こえない振りをするの?
 焦っていた私は病院内を歩き回り、元の場所へ戻ってきてようやく理解をする。 
 私は、自分の病室に戻って――もう一人の自分を見下ろした。
 チューブに繋がれ、寝ている自分を見て――かなり驚いた。
――これって……もしかして……
 死んでいるかと思ったが、まだ生きているようで、自分が幽体ということに気がつく。
 両親は死んで、私が寝ている間に葬式は終わっていた。
 凄く悲しくて、私は幽体のまま時間も忘れて泣いていた。
 何日も泣いた後にようやく意識がはっきりとしだす。 
 私は、もっと色んなことを知りたいと思い、幽体のままうろうろと動き回る。
 初めは病院だけだったけど、勇気を出して近い範囲で動いてみた。
 自分の家に行ってみても誰もいない。
 しんと静まり返った家はどこか寂しくて、不気味に思えてしまった。
 それでも埃も積もっていないのを見て、不思議に思ってしまった。
 だけどすぐにその答えを知ることになる。
 いつの間にかハウスキーパーさんが来ていて、家を掃除してくれていた。
 きっと従兄弟のお兄さんが頼んだのだろうと頭の片隅で思う。
 優しくていつも可愛がってくれていたお兄さん。
 見舞いにも来てくれて、いつも語りかけてくれる、従兄弟のお兄さん。
 キスを一度だけしたけど、それはどんなものかと興味があっただけで。
 実は、お兄さんに恋心は何一つなかった。
 それでもお兄さんは私を愛しく思って――妹のようにという意味だが、世話を献身的にしてくれた。 
 お兄さんに直接お礼を言いたかったが、私の体は動かなかった。
 本体に戻って見ても、指先の一つ動くことがない。
 それでもいつかは起きられるだろうと私は気ままに思い、自由に遊ぶ。
 懐かしき母校に来て、感慨深く見てしまう。
 こんなに鉄棒が低かったんだと手を滑らせたが持つことができない。
 あ、幽体だったんだと思い、今度は教室へ行く。
 小学校の頃、よく過ごしていた場所も今見れば全てがおもちゃ箱のように小さい。
「ん、なにこれ?」
 足下に落ちているぼろぼろの雑巾。
 それにしては大きい布だと思って見ていれば、そこには名前が刺繍されてある。
「池添正樹……」
 名前を呼びあげると、その本人が走り寄ってきてその布を手に持った。
 体操服だったんだと気がつき、私は少しだけ眉をしかめた。
 正樹君、いじめられているんだ。
 それが分かり、私は正樹君が気になりはじめる。
 私はいつの間にか正樹君を観察することが、毎日の楽しみになった。
 正樹君の家は父子家庭で、父親はいつも忙しくて帰ってくるのが遅い。
 正樹君はテーブルに置かれたお金で、コンビニに行って御飯を買う毎日。
 そして、学校ではいじめにあっていて、たまに暴力を受けたりしていた。
――やめなさいよ!
 私は叫んでみたが、声は届かずに悔しい思いをした。
 肉体に戻ってみてもやはり体は動くことがない。
 このまま、死んでしまうかも――。
 そんな悲観的なことを考えながらも、私は幽体のまま正樹君を見ていた。  
 そこから時は経ち、正樹君は縄を持って裏手の山に行こうとした。
――死にたい
 正樹君の心の声が聞こえてきて、私は悲しくなった。
 たった十一歳なのに、正樹君はこの世界に絶望していた。 
 その時なぜか、無性にこの子に生きて欲しいと渇望が湧く。
 生きていれば、きっといいことはあると教えたかった。
 だから、たかだか十一年でこの世を去って欲しくない。
 そう思い、私は彼に声をかけていた。
「何、しているの?」 
 不思議と私の声は肉声となり、静かに響いた。
――声が、出る
 正樹君が、私を見据え動揺する。
――私が見えているの? 今まで見えなかったのに
 その時、私の中にある考えが浮かんでくる。
 彼――正樹君は死に近い場所にいるため、私と波長が合い、見えているのかもしれない。
 それが何だか嬉しくて、私はもっと話をしたくなる。
 正樹君は死ぬんだと言ったが、どこか迷いが生じ始めていた。
 私を桜の妖精と勘違いし、少しだけ興味を惹かれているようだ。
 私がふうん、と返すと正樹君は止めて欲しいという心の声が聞こえてくる。
 可愛い――私はそう思い、正樹君を命を預かることにした。
 正樹君は私の強引さに戸惑っていたが、一緒にいることを承知してくれる。
 手を握ると、実体を持ちはじめ久々に人の温もりを感じた。
 温かい、そう漏らした声は正樹君に聞こえて、小さい手を絡ませてくれる。
――なんて、優しい子 
 この時――この暖かさをずっと欲しいと思ったのは私の方で。
 正樹君を私のモノだけにしたいエゴが芽吹いた。
 正樹君となら、どこへでも行けそうだと思い、私は思い切って近い範囲から出ることを決意する。
 両親と行くはずだった、五大桜を見に行こうと思った。
 そう、正樹君となら遠いところにも行ける。
 漠然とだが、私の中では奇妙な確信があったのだ。
 そして私と正樹君の旅がはじまった。







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