河畔に咲く鮮花  

第四章 四十一輪の花 5:長虎のお仕置き《1》


***

「本当に君は色んなことをしてくれる。ペットの分際で、この僕を振り回すとは恐れ入るよ。だから、きちんと主従関係をわからさなければいけないね。だから、これはお仕置きだよ」
 そう長虎から言われたのは夜も更けた頃だった。
 力任せに蘭は手足を縄で縛られて、四肢を四方に広げられている。
「あの……止めて下さい」
 大の字の形で、寝そべっている蘭は下着姿のままだった。
 身動きしても全く動くことがない、縄の強さに蘭は顔をしかめるが、すでにほろ酔いの長虎は不敵に笑うだけ。
「君は口で言っても分からないだろ。ペットは体に言うこと聞かせるのが一番だ」
 長虎が何をするかが分からなくて、蘭は体をねじっては縄から逃れようとした。
「本当に長虎の変態趣向は困るよね」
 アキがちょこんと座って悪態つくが、どこかそわそわと体を揺らし、ちらちらと四肢を広げた蘭を盗み見する。
「アキちゃん、嫌なら帰っていいんだよ」
 長虎がぐびっと酒を煽り、アキにそう言うが、本人は帰らないとジュースをごくごくと飲み干した。
「あの、もう大人しくしておきますから。許して下さい」
 蘭が泣き出しそうな声を出すと、長虎が手に酒瓶を持って近づいてくる。
「駄目だよ、これはお仕置きなのだからね」
 長虎の涼やかな目が色っぽく細められると、蘭のお腹に冷たい酒がこぼされた。
「ンっ……」
 酒の嫌な感触が腹に伝わり、蘭は思わず背中をのけぞらせる。それを見た長虎の喉がごくりと大きく鳴った。
「ふふふっ……言っても分からない君には、こうしてあげる」
 長虎の端然とした顔が落ちて来たかと思うと、べろりと酒ごと腹を舐め上げられた。
「ひっ……」
 長虎の生暖かい舌の感触にびくりと四肢は跳ねる。
縄で繋がれた柱がぎしりと鳴り、淫猥な空気を醸し出した。
「ンっ……ふっ……この酒はおいしいな……甘くて……芳醇だ」
 酒はもうないのに、長虎は蘭の白い腹を濡れた舌で何度も上下に這わせる。
そのたびに体をねじって長虎から逃れようとするが、舌が追いかけて来ては、ねっとりと舌で腹を舐めまわした。
「あのっ、もういいですよね? 止めて下さいっ……」
 何度も舐め回されるとお腹がくすぐったいのか、気持ちがいいのか分からなくなり奇妙な感覚に陥る。
「駄目だよ、お仕置きなんだからたっぷり教え込まないとね」
 長虎は酒を口に含むと艶を帯びた瞳で、蘭の顔に近づいてきた。
――長虎様……酔っているわ……
 大分、酔っているのだと思っていたらそっと顎を掴まれ、長虎の理知的な薄い唇に吸い付かれる。
「ンっ……!」
 すぐに長虎の口に含まれた酒が蘭の口腔内に流し込まれ、一緒に熱くぬるついた舌が粘膜をなぞるように舐めあげてくる。
それでは飽きたりないのか、舌は激しく蠢いて、舌に絡みつき、全てを貪るように強く吸い付いてきた。
息もつけない濃厚な口づけに蘭の肢体はびくんびくんと跳ねては、長虎から逃れようとする。
「あっ……ふっ……」
 呼吸を求めて口を開くと、長虎の長い舌がすぐさま口腔内の奥に伸びてきて、溢れるばかりの熱い滴りを飲ませられた。
「もっと僕の味を覚えてくれるかい……君はまるで媚薬のようだね。狂おしいほど脳を痺れさせてくれる……ンっ……」
 うっとりと美しい瞳を細めては、長虎はまた蘭の唇を塞ぐと激しくねっとりと舌を絡めてくる。
 あまりに長い間、貪られて口元から熱い滴りがこぼれ落ちていった。
「な、長虎……酔っ払っているの? そんな姿、見たことないんだけど……」
 アキが目を潤ませながら、赤く上気している頬に手を持っていき、はぁと熱い息を吐き出す。
 長虎が唇を名残惜しそうに離すと、蘭との間に透明の粘ついた糸が引かれた。
「酔っ払っていると思うかい? 僕はこうみえてもお酒には強いんだよ。知っているはずだよね、アキちゃんは」
 長虎は蘭だけを見ながら酒をまた胸や腹、下肢にまでぼたぼたとこぼしていく。
「だ、だって、いつも変な趣向はするけど、遊んでいるのは健吾だったし、長虎は見ているだけだったじゃん」
 アキが必死で声を荒げるが、声は上ずりはぁはぁと乱れた息を繰り返しては、何度もジュースをごくごくと飲む。
「アキちゃん……落ち着かないのかな。もしかして、一緒にこのお仕置きに交じりたい?」
 長虎がくすりと嘲るように笑うと、アキは顔をますます真っ赤にして、ぶんぶんと首を横に振った。
「だ、誰がっ、そんな野猿の女なんか……」
 すぐに否定はするが、言葉の最後は尻すぼみになり、アキはもぞもぞと落着きなく腰を動かす。
「じゃあ、そこで見ているといいよ。さぁ、お仕置きを再開するよ」
 アキが大人しくなったのを見て、長虎は薄く笑い、蘭の白い首筋に舌を這わせた。
「お、お願いだからっ、もう止めてっ……」
 べろべろと遠慮なく舐めては、長虎はちゅうっと強く首の薄い部分を吸い上げる。
ちりっとした痛みが走り、蘭の白い首筋に赤い花が浮き上がった。
蘭は奇妙な感覚におののきながらも、長虎に跡をつけられたのだと虚ろな頭で考える。
「ンっ……君の肌……滑らかでおいしいよ……僕のモノだと、たくさん跡を残してあげる」
 長虎ははぁと熱い息を吐き出し、何度も首筋を吸い上げては、白い肌に赤い花を散らせた。だんだん、長虎の呼吸も速くなると舌の動きは激しさを増し、蘭の肌を舐め回していく。鎖骨を舐めていた舌は胸に下り、下着の上から唇に含まれる。
「ンっ……じゅるっ……ここにもお酒が染み込んでいる……」
 下着の上から染み込んだ酒を飲む長虎の唇の熱を感じて、蘭は強い疼きが下肢に走ったことを認めたくなかった。だが、酒の弱い蘭は先ほど飲まされたアルコールによって、脳がふらりと痺れはじめる。随分と強い酒だったのか、段々と酔いが回ってきた。
 脳の芯がぼうっとしていく中で、意識が長虎の這い回される舌だけに集中する。 






 





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