先輩、僕の奴隷になってよ hold-16

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***


「――ん……」
 深い眠りについていたが、隣りで寝る愛斗の呻きに目が覚めてしまう。
 何度も愛斗の精を春香の中に、お腹の上に、最後は口の中に出され――散々身体を穢された後にシャワーを浴びてすぐに寝てしまった。
 愛斗もぐったりとして、深い眠りに落ちていたのだが、苦しそうに胸ぐらのシャツを掴んでいた。
 額にはじわりと汗まで浮かんで、苦しげな息を漏らしている。
「愛斗君……?」
 顔を覗き込むが、愛斗は寝入ったまま瞳を開けることはない。
「……違う……お母さんは……浮気なんてしていない……違う……違う……」
 愛斗の反発するような声は苦しげで、その寝言を聞いた春香は眉根を寄せる。
「愛斗君……」
 愛斗はいつから自分の母が不倫をしていたことを知っていたのだろう。
 春香の父が死んだ――その日は紅葉の美しい日だったと母は言った。
 週末には家族で紅葉を見に公園へ行こうと、母が弁当のおかずをスーパーで買っていたことを覚えている。
 あの頃の春香は、たった八歳であった。
 一つ下の愛斗は、七歳でその真実を知ることになったのだろう。
 愛斗の父は酒浸りになり、事故で死亡して――
 親戚をたらい回しにされた愛斗は、きっと中傷され続けたに違いない。
「いつ、私の存在を知ったの? 愛斗君……頭いいのに……私と同じ学園に入って……サークルも同じところに入ったのは……全て計画通り?」
 春香と出会ったのは偶然ではなく、全て愛斗の計画通りだったのだ。
「私を見て……どう思った? 何も知らない能天気な奴だって……そう思った?」
 春香は何も知らず、今まで父は病気で死んだと思い、不倫相手の息子に恋をした。
 特別な存在になれなくてもいい――王子的存在の愛斗と話すだけで、それだけでいいと思っていた。
 それが学園でのいい思い出になるだろうと、春香の毎日は充実していた。
 だけど一方で、愛斗はどう思ったのだろう。
 同じ境遇であったはずの春香を見て、呆れただろうか、落胆しただろうか。
 無邪気に笑い、愛斗を追いかける春香があまりにも自分とは違って見えて――憎く思ったのだろうか。
 愛斗の幼少期のように親戚からたらい回しにされることもなく、母と一緒にここでの暮らしを順調に過ごしていた。 
 父が死んだ後、住んでいた家は売り払い、この地域へと引越してきた。
 あの時一緒に遊んでいた、幼馴染の男の子はまだいるのだろうか。
 親の都合で家に一緒に住んでいた男の子は、本当の兄弟のようで春香がお兄ちゃんと呼んでいた。
 お兄ちゃんも春香を妹のようにかわいがり、いつも優しく接してくれた。
 年は確か同じだったはずなのに、そのしっかりとした頼もしさは春香にとって大きな存在でもあった。
 父が病気で死んだと告げられ、お兄ちゃん――そう呼んでいた男の子もあの家からいなくなった。
 その時から愛斗の人生も変わってしまったのだと思うと、胸がきゅうっと痛くなる。
「――違うっ……違うっ……母さんは……裏切ってない……」
 悲しげに吐露される愛斗の目尻にはきらりと光る涙の粒が浮かんでいた。
「――愛斗君」
 春香がそっと抱き寄せ、汗で濡れた愛斗の髪を優しく撫で回した。
「大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて――」
 小さい頃にお兄ちゃんと呼んでいた男の子からされたまじないの言葉。
 頭を優しく撫でられ、大丈夫と落ち着かせてくれたことを愛斗にしてみる。
 すると、愛斗の顔がふっと緩んで、すがりつくように春香の胸に顔を埋めてきた。
「――春香」
 それだけをぽつりと囁いた愛斗の表情は天使のように愛らしく見える。
「愛斗君……いいよ……どこまでもつき合ってあげる……たとえ……君が私を好きでなくても……」
 一種の贖罪のような気持ちが芽生え、愛斗が気の済むまで一緒にいようと春香は誓ったのだった。










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