河畔に咲く鮮花  





 それを行動で示すように、アユリが激しく唇を貪ってきた。
「――つっ……!」
 アユリの激しいキスは、蘭の柔らかい唇を食べるように歯を立てては、噛みちぎる。
 ガリッと嫌な音が響き、唇に痛みが生じた。
 口の中に錆びた鉄の味が広がり、血が出たのだと脳の片隅でそう――悟った。
 アユリを振り払おうとも、体が弛緩して上手く動かない。
 きっとさきほどのジュースに薬を混ぜていたのだろう。
 血と、おさまることの知らない性への狂乱。
 あの狂った饗宴の、綺麗な月の夜が脳裏に浮かぶ。
 あの夜に蘭が見てしまった身を震わせる情事。
 それが今夜も行われる――今度は、蘭相手に。
 アユリの正気を失った瞳には、蘭が見たこともない狂気が刻まれていた。
 興奮して滾る情欲と、尽きることのない性への欲望――
 それを見た瞬間に白い肌がぞわっと粟立った。
 恐れおののくが、そんなことでアユリは逃してはくれない。
 今から蘭を獣じみた狂気で、貪り尽くすのだろう。
「……ああ、蘭姉ちゃん、ごめんね、許して。すぐに血を舐めてあげるから」
 はぁはぁと息を荒げて、アユリの長い舌が突きだされた。
 噛まれた唇からとめどなく血が流れていく。
 それをアユリはちろりと赤い舌で舐めとり、ごくりと喉に含んだ。
「蘭姉ちゃんのおいしいよ……甘くて、最高……ああ、もっと飲ませて」
 興奮したアユリは蘭の唇を荒々しく貪り、口腔内に広がった血をも舐めとった。
「んふっ……んっ……蘭姉ちゃん……はあっ……おいしい……ちゅっ……んっ……ごめんね、こんな俺を許してっ……」
 アユリの舌は乱暴なほどに歯列を割り、血の広がる口腔内を激しく貪る。
「アユリ……どうしてっ……」
 血を舐めとる行為に夢中なアユリに視線を巡らせて問う。
 ゆっくりと蘭の唇から放れて、アユリは熱に浮かされたように言葉を放った。
「……蘭姉ちゃん、助けてよ。狂いそうになるんだ、こんな満月の日は。吸血行為をしたくなって、おかしくなる。血を飲むと激しい射精衝動が起きるんだ……ねぇ、助けて……」
 必死で懇願してくるアユリの瞳から一筋の滴が零れ落ちる。
 月の光に反射して、露を含んだ細いまつ毛がきらりと弾けた。
 それがまるで散らばった星の雫のようで――。
 それは、いつの間にか唇に噛み付かれたことさえ忘れてしまうほどの美しさだった。
「蘭姉ちゃんを傷つけたくないのに。だから、ずっと距離を置いていたんだ。必死で我慢して、我慢して。だけど、もう気が狂いそうになるっ」
 苦しげに漏らして、アユリは次々に美しい真珠のような涙をぽろぽろとこぼす。
「アユリ……」
――俺を失望させない自信ある?
 ふっとアユリの悲しげに漏らした声が脳に降ってくる。
 アユリの心の内側に今触れた気がして、蘭はゆっくりと手を伸ばした。
 蘭を避けていたのは嫌いになったからでも、蘭に失望したわけでもない。
 蘭を傷つけたくない為、蘭のことを思っていてくれていた為の行動だった。
 そのなにも知らずに、アユリは一人で気が狂いそうになる想いと戦っていたのだろう。
 蘭は涙を流しているアユリの柔らかい頬に触れた。
 アユリがここまで苦しんでいるのなら――応えたい。
 涙を指先で拭い、蘭は自分が助けられるなら、受けとめようと決心を決めた。
「いいよ――アユリ」
 驚きを刻んだアユリの目は大きく見開き、蘭を真っ直ぐに見つめてくる。   
「これがアユリの助けになるかは分からないけど、私は受け止めるよ」
 蘭の受け入れてくれるという言葉に虚を突かれたのか、アユリはますます顔をくしゃくしゃにして泣いた。
 その泣き顔すらも今は愛しく感じる。
 獰猛なほどの猛々しい熱情を表面にははっきりと現しているのに、本当は苦しくて堪らないという気持ちを内に沈ませている。 
 相反し、せめぎあう中でアユリは必死で戦っているのだ。
 それが胸を突くほど切なくて、悲しくて――。   
「――泣かないで」
 腕を伸ばしても弛緩して重くなってくる。
 アユリの涙も拭いてあげられずに、蘭はぱたんと腕を下に落とした。
 数秒――泣き濡れたアユリと視線が絡みあって、蘭は安心させるように優しく微笑んだ。
「……蘭姉ちゃん」
 アユリが泣きながら唇を塞いできて、蘭の体をその場に容赦なく押し倒した。
 バサッと赤い花の中に身は横たえられ、むせ返るような香りが鼻をつく。
 大きすぎるほどの満月が空に昇り、青く冴えた光が蘭を隅々まで照らした。
 アユリが覆い被さり、月明かりを浴びた綺麗な顔に濃い陰影を刻んだ。
「綺麗だ、蘭姉ちゃん……ごめんね、俺、めちゃくちゃにしちゃうかも」
 アユリはそう言うと待てないように浴衣の帯を解いて、襟元をぐっと割った。
 さらけ出された蘭の胸を見て、ああっとアユリは感動を帯びた声をあげる。
「綺麗だ、凄く……ああっ……蘭姉ちゃん。俺を許して」
 アユリは何度も許してと乞うては、その反面、荒々しいほどの感情をぶつけてきた。
「んっふっ……おいしいよっ……蘭姉ちゃんの胸……綺麗で甘い」
 ぬるりとした熱い舌が蘭の薄く色づくの蕾を濡らしていく。
 一通り味わった後でアユリは状態を起こすと、もう一度蘭を見下ろした。
 ゆっくりと綺麗な顔が落ちてきて、唇を塞がれる。
 舌は遠慮なく口腔内を蠢き、粘膜を舐めとるように貪る。
 そして、アユリは自分の口に溢れた熱い滴りを、蘭の口腔内に大量に流し込んだ。
 粘ついた透明の液は蘭の喉の奥をとろりと流れていく。
 味わうようにそれを飲んではアユリを見上げる。
「蘭姉ちゃん、蘭姉ちゃんのもちょうだい。たくさん飲ませて」
 アユリがそう言ってもう一度唇を塞いできた。
 蘭は甘美な毒に痺れて、口の中に大量に溢れた滴りをアユリに流し込んだ。
 アユリはそれをごくりと喉で味わっては奥に流し込む。 
 興奮の欲を交換しあって離れた唇の間には、粘りを含んだ透明な糸が引かれていた。
「おいしいよ、蘭姉ちゃんの」
 濡れた唇が艶かしく動いて、そのままアユリはまた蘭の胸に顔を埋めた。 
 粘ついて濡れた舌は蘭の桜色の蕾をねっとりと舐め上げて、執拗なほどに転がす。
 何度も繰り返しされて、いつの間にか、アユリの手は舐めていない左胸をもみし抱いていた。
「凄い、柔らかくて触り心地いい。ああ、蘭姉ちゃん、ここが、こりこりしてきたよ。気持ちいい?」
 濡れた柔らかい唇で蕾は強めに吸いつかれ、指ではこりこりと弾くように捏ねられて、興奮を帯びては固く尖っている。
 ぬらりと濡れた艶を帯びた蕾は赤く充血して、もっと吸って欲しそうにアユリの愛撫を待っていた。   
「蘭姉ちゃんっ……ちゅっ……んっ……固くなってる……」
 それに応えるようにアユリは、濡れそぼった固い尖りを激しく吸い上げては、舌だけでたっぷりと扱いた。
「はぁっ……んっ……アユリ……」
 蘭は思わず甘い声を漏らして、アユリの舌戯に酔いしれる。






 





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