河畔に咲く鮮花  





 「また動くよ、蘭姉ちゃん。今度は、左側の襞の奥……ちょい下かな……この気持ちいいところを狂うほど犯してあげる」 
 蠱惑的に半円を描く、官能的な唇を見て、蘭の脳に倒錯的な痺れが生じる。
 すでに硬くなっていきり勃った雄は、角度を変えて反り返る欲望で左の膣壁を容赦なくなぞりあげた。
「ひゃっ……はあっ……ンッ……」
 先ほどと違う敏感な秘所を、粘るようにねっとりと擦られて蘭の体は素直に反応してはびくりと跳ね上がる。
「いいでしょう? 蘭姉ちゃん……」
 ぬちゅと押し込まれては、今度は焦らすようにゆっくりと膣襞を味わう肉径。そんなにゆっくりといやらしく動かされては、気が狂うかもしれない。
「はあっ……ンッ……アユリ……おかしくなる……連続で……そんな……溺れちゃうよっ……ああんっ……」
 いやらしく、じっくりした動きで中を堪能しているアユリは、綺麗な顔を寄せて来て、ぞっとするような美しい笑みを湛えた。
「蘭姉ちゃん、おかしくなっていいよ。この行為に溺れて、狂っちゃえよ」
 その綺麗な微笑に飲まれるように、蘭の理性のタガは外れた。
 狂うほど気持ちいい場所を犯して欲しくなり、もっとアユリの精を絞ろうと若い雄を締めつける。
「ああっ、蘭姉ちゃん。また締ってきた……はあっ……凄くいい……死ぬほど気持ちいいところ犯して、俺が狂わせてやるよっ……くうっ……はあっ……」
 アユリはなまめかしく笑うと、蘭の敏感な秘所を重点的に攻め始めた。
「もう……駄目っ……アユリ……狂っちゃう……」
 アユリが乱れて行為に耽る度に、蘭も肉欲に溺れて嬌声をあげる。
――もう、駄目……快楽に堕ちていく
 濃密な一夜の中で二人は飽くことなく快楽を貪り、淫らな行為に溺れては高みに昇り詰めていく。
 蘭は圧倒的な快楽に我を忘れ、ただむせ返る花の濃い香りにあてられて、求められるままに体を委ねた。
 ザザッと一陣の強い風が吹き荒れ、花を蹴散らしていく。  
 赤い花びらがはらはらと舞い上がり、その狂おしいほどの美しい夜に、アユリと蘭は狂乱と罪深い世界に身を投じた。
 魂が混ぜ合わさり、溶けていってしまいそうな心の高まり。
 我を忘れ狂い乱れて、白い体を重ね合わせては、何度も高みに昇りつめた。  
 眩しすぎる月が見ている下で、、狂熱的に二人は忘我の境に入(い)る。 
 それほど心を奪われて、蘭はアユリの物狂おしいほどの愛を全てで受け止めた。 
 数え切れないほどの快楽を与えられたと同時に、何度も若い精を受け止めた後、二人は重なったまま静かに目を閉じていた。 
 静かな――とてつもなく静かな静寂だけがこの場を満たす。
 聞こえて来るのは、蘭に重なったアユリの胸からの心地良い心臓の音だけ。
 とくん、とくんと規則正しく心音は鳴り響き、蘭はその旋律に耳を傾けていた。
 風が止み、無音の長閑(のど)けさの中で、アユリはぽつりと静かに漏らす。
「蘭姉ちゃん、ごねんね。俺、我慢が出来なかった。それでも勝手な言い分かも知れないけど、すっごく満たされているんだ。今まで精をいくら吐き出しても空虚だったのに」 
 少しだけ顔を俯かせると、胸の間に顔を埋めているアユリは、先ほどまで蘭を狂ったように貪っていたとは思えないほど安らいでいた。
「……俺、小さい頃さ、親から虐待受けてたんだ。人魚の里意外で暮らしてて。父親は家庭には無関心。母親はそのストレスで俺を殴っては発散していた」
 そこまで言って、アユリは長く繊細なまつ毛を苦しげに伏せる。
 蘭も唐突なアユリの過去を聞き、茫然としながらその内容に耳を傾けた。
「ある日、殴られた勢いで机の角にぶつかって、ぱっかり後頭部が割れちゃってさ。血が出て止まらなかったんだ。それもそのまま放置されて、俺はこのまま死ぬんだって思ってた。だけどその時、生きていたいって渇望にも似た思いが湧いたんだ」
 アユリの心音が先程より、とくとくと早くなっている。
 きっと話したくもないおぞましい過去なのだろう。
 それでも、アユリは自分を分かって欲しいように続けた。
「本能っていうのかな。わかんないけど、死にたくないって思ったんだ。まだここで死にたくないって。それでも流れていく血は止まらなくて。必死で自分で自分の血を飲んでは、体に溜めようとしていたんだ」
 アユリの伏せられたまつ毛が悲しげに揺れている。
 長い翳りを落とした頬に、一条の滴がスーッと零れ落ちていった。
「……それでどうなったの?」
 蘭はやんわりとアユリの繊細な髪を撫でては、続きがどうなったのかを促す。
 アユリが話したいことを全部受けとめよう。そう思って痛ましい過去を聞きだした。
「元々、俺の家庭は児童虐待があるって目をつけられてたんだ。センターの職員が偶然に訪問してくれたおかげで、病院へ連れて行ってくれた。だけど、元々、血が止まりにくい病気だったみたいで、そこから毎日血を輸血する日々。血がなくなると死んでしまう。そんな恐怖が生まれたんだ」
 そこまで聞いて蘭は胸が痛む。虐待によって受けた時に傷ついたのは体だけではなく、心も深く傷ついてしまった。死にたくない、血を飲まなければ、全身から血がなくなって死んでしまう。
 そんな死への恐怖が、アユリの血を飲む行為に繋がっていると気がついた。
「だけど、俺の病気はただたんにビタミンが驚くほど欠乏していた為だったんだ。ご飯もろくに与えられていなかったから、そんな状態に陥ったんだと思う」
 蘭はえっと目を丸くして、その話に疑問を持つ。
 ビタミンが欠乏して血が止まらなかったなら、摂取すればアユリの病気は治るのではと。
 「俺の病気は治っているよ。その後、親の元を離されて、児童施設で過ごしたんだ。ビタミンも摂取するようになって、血の止まらない病気は綺麗に治ったんだ」
 蘭は驚いて目を見開き、アユリの顔を見つめた。アユリは小さく笑っては肩を少しだけ竦めた。
「それから志紀が児童施設に来て、事情も知った上で引きとってくれさ。それで人魚の里に来たってわけ」
「志紀が……?」
 志紀の名前を聞いて、その大輪の花のような笑顔を思い出す。
 心根の優しい青年はアユリに救いの手を差し伸べたのだ。
「病気も治ったし、俺はここでの生活も気に入っていた。そんなある日、足を怪我しちゃってさ。大量の血が流れて行くのを見て、心臓が握り潰されそうな気持ちになったんだ。あの時の苦しい記憶が舞い戻って来て、気が付いたら自分の血を吸ってた。それが、ちょうど今日見たいな満月の日」
 アユリは少しだけ顔を上げて、天に昇る冴えた青い月を見つめる。
 その瞳は憂いを含み、どこか寂しげであった。
「その時、初めて気がついたんだ。幼い時にはなかったけど、それと同時に激しく湧き起こる射精衝動に我慢できなくなったってことを。あそこが痛くて、俺は必死で自分のを扱いたんだ。そこで初めての放出をしたってわけ。そこから、満月近くになると吸血行為をしたくなって、同時に精も吐き出すことが一緒になった」
 アユリが真樹子にしていたことを思い出し、きゅっと胸が締まる。
 里に来てから、初めての放出を覚えて、アユリのことを好きだと言った真樹子に手伝わせていた。
「診療所で輸血パックを貰っては満月の日に飲みながら放出させていたんだ」
 そう、アユリの体の病気はとっくに治っている。
 だけど、激しいトラウマが残っており、心の傷は回復していない。
 それが、今も継続しているのだ。
「本当は外に出て生活するのは危険だったけど、人魚の里の暮らしの足しにしたくて、アイドルなんてやってたわけ。お金を稼いで、生活費を志紀に渡してた」 
「えっ、そうなの?」
 蘭はアユリからは想像出来ない行動に思わず目が点になる。
 そういうの面倒臭いと言うかと思いきや。それでアイドルなんてものをしていたのだ。






 





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