こちらはR-18になります。年齢が満たない方は移動をお願いします→移動


エゴイストな夜 side4ー5 【綾子と速水の大人な恋!?編】






 速水が連れて来てくれたのは、テーブルチャージがある、お洒落で水槽が目の前にあるお店だった。
 なに、これ? デートみたい。
 私は内心どきどきとして、速水と隣り合わせでソファに腰を沈める。
 速水は水槽に視線を移し、泳ぐ魚を見つめていた。
「桜が魚が見たいって言っていてな。大人になれば連れて行ってやるってこの店を見つけたんだ」
 速水がぽつぽつと喋り出し、私はいささかむっとしてしまう。
 私を隣りにして、他の女のことを喋るとはどういうことだ。
 だけど、私は謙虚に速水の話しを聞くことにした。
 彼が――サイボーグの仮面を外し、ようやく心を開いてくれようとしているから。
「二十歳になったけど、桜はあの通りで目覚めない」
「――え?」
 二十歳――? あの少女が?
 彼女は十六、七歳にしか見えなかった。
 お酒が入ってきた速水は饒舌になりだして、桜ちゃんのことを話してくれる。
 それはとても、とても不思議で切ない話しで、私はいつの間にか聞き入ってしまった。
 桜ちゃんは十六歳の時に両親と三人で、五大桜というものを見に行く途中で事故に遭った。
 従兄妹の速水は桜ちゃんを妹のように可愛がっていたらしい。
 速水の家は両親が少し金に汚いところがあり、桜ちゃんの家が裕福で妬んでいたらしい。
 それが速水は嫌いで、純粋な桜ちゃんを大人の汚い争いから守ろうとしていた。
 その矢先、桜ちゃん達は事故に遭い、両親は他界。
 桜ちゃんだけは奇跡的に命をとりとめたが、意識が戻らないという。
 速水は後見人となって桜ちゃんの生命維持を望んだ。
 そこに不思議な少年が現れ、桜ちゃんの生命維持のチューブを外そうとしたらしいのだ。
 それが正樹君らしい。
 あの他校の男子生徒か――私は後ろ姿を思い出す。
 速水は正樹君に理由を聞くと、桜が会いに来てくれたというのだ。
 何でも正樹君は小学生の時に自殺しようとして――それを止めたのが桜ちゃんというのだ。
 正樹君は色んなところに、桜を見に行ったと不思議な話しをしてくれたという。
 少年の嘘かと思ったが、桜ちゃんの話し方や癖をこと細かに話してくれた正樹君の話しを速水は真実だと思ったらしい。
 桜ちゃんに助けられた正樹君は、今度は彼女を悪い奴ら――ここでは遺産を狙う速水の親などから守ろうと決めたらしい。
 そこから気が遠くなるほどの年月が経ち、正樹君は高校一年生になった。
 私はそれを聞いて、なんて一途な子なのだろうと思ってしまった。
 私など三ヶ月も持てばいいほうなのに。
 そして同じように見守る速水も、なんて心が温かい人なのだろうかと。
 あまりにも深い愛に私は自分が情けなくなってしまう。
 私はやっぱり浅はかで安っぽい人間だった。
 私が男に愛していると軽々しく振りかざしていたものは砂のように脆く、形すら留めていない――この二人などに比べたら。
 桜ちゃんにはかなわない――そう思うと何だか泣きたい気持ちになった。
 絶対に私はこの三人の中には入れない。
 速水も正樹君も一人の為に、そこまで時間を割けて寄り添っていけるのだから。
 桜ちゃんは目覚めることなく、こちらの話しに何一つ応えてくれないというのに。
 そんな深い海のような愛の中に私は永遠に入ることはできないだろう。
 私はじわりと涙が浮かび、それを速水に知られたくなくて顔をそっと俯かせた。
泣いているなど――絶対に知られたくなどない。
 速水は全てを話し終えて、そっと私の手に指を絡めてきた。
――え?
 速水の瞳は潤み、雄の情欲を宿しているように見える。
 これって……まさか……お誘い?
「苦しいんだ……あんな桜を見るのは……」
 速水は酔っ払っているのか、胸の内を吐露してきて髪をぐしゃりと掻き乱す。
 私は一夜限りのお誘いだと分かったが、それでも速水と一緒にいたくて彼を受け入れることにした。
「私が慰めてあげる」
 ああ、私は馬鹿だ――。
 速水はただ苦しくて、寂しくて、私を抱いてその場限りの欲求を吐き出すだけなのに。
 やっぱり今まで私がしてきたことが――報いが返ってきたのだ。
 愛のないHをしてきた代償。
 本当に愛が欲しい人からは遊ばれる運命。
 因果応報とはよく言ったもので――。
 それでも肩に顔を落とす速水の髪の毛を優しく撫でつけ、私は抱擁する。
「いいわよ、行きましょう――」
 私は速水の手を取り、ホテルへと足を運んだ。
 ああ、本当に私は愚かな女だ――
 そう思ったが、この繋がれた手を今だけは放したくなかったのだ。













ぽちっと押して、応援してくだされば、励みになります。m(_ _)m
↓   ↓   ↓





38      side4−4   エゴイストな彼  

                     next      back  


inserted by FC2 system