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エゴイストな夜 side4ー2 【綾子と速水の大人な恋!?編】






 ストーカー行為ともとれる行動を私はそれから毎日、毎日していた。
 速水は残業があった日も、足繁く病院へ通っていた。
 やっぱり、毎日行っていたんだ――。
 やきもきしながらも私は病院の前で見舞いを終えた速水を待ち、しつこく後を追い掛け回す。
「あの、食事とかどう?」
 ――無視
「じゃあ、コーヒーとか?」
――無視
「お酒でもいいわよ」
――無視
 人間、無視されるのが一番こたえる。
 そういう毎日が繰り返され、私はもう精神的にもへとへとになっていた。
 そんなある日――
「あの、いい花屋さんがあるけど」
 そこで初めて速水が反応して、足を止めてくれた。
「あの女の子の見舞いに花を持って行っているでしょ? だから、可愛いお花がある花屋さんを偶然見つけてね」
 本当は必死で花屋を見つけたのだが、そんなことは恥ずかしくて言わない。
「桜の花はあるか?」
 速水がぽつりとそれだけを述べる。
――桜?
 そういえば今は桜の季節で、私の見つけた花屋にもあったように思える。
「あるわよ」
 私がそう言うと速水は案内してくれ、と短く言った。
 花屋について桜の枝を必死で選んでいる速水の姿は何だか可愛らしい。
 難しい顔をして、これがいいか、あれがいいか、などと店員と話しあっている。
 だけどそれは全部、あの寝ている少女の為で――
 それを考えると、胸がちりちりと痛んだ。
 私にもあんな風に色んな表情を見せて欲しい。
 ああ、なんてことだろう。
 私は速水が好きなのだ――。
 私はその時初めて速水に恋していることを知った。
 速水はようやく決めたらしく桜の枝を何本か買って、私の方に振り向いた。
「お前も行くか?」
「え?」
「病院へ」
 淡々と言われるが、私はようやく彼の内側に入れると思い大きく頷いていた。
 浮き立つ足取りで速水と病室へ行き、私が花瓶に桜の枝を生ける。
「正樹君はまだ来ていないのか」
 私に喋っているのかと思えば、速水は寝ている少女に話しかけていた。
 何だかそれが少しだけ不気味に見えてしまう。
 少女は何一つ喋らないし、まつ毛さえも震わせることがない。
 まるで、人形ごっこをしているように見えて――。
「桜……正樹君に会いに行ったように、俺にも会いに来てくれないのか?」
 何の話しをしているのかがさっぱり分からず、私は何度も目を瞬かせてしまう。
 一体、この子は誰?
 正樹君って誰?
 知らないことだらけで、私はその様子をじっと見守るしかない。
 速水は時計に目を落とし、少女――桜ちゃんに別れを告げた。
「もう少しで正樹君が来るはずだ。また明日な、桜」
 額にかかる桜ちゃんの髪の毛を払い、優しく微笑む速水。
 私はその笑顔を見た瞬間、胸が締め上げられ、どうしてか涙が出そうになった。
 本当はこの人はとても優しい人なのではないだろうか。
 苦しい状況に置かれているけど、それを必死で取り繕い、サイボーグという仮面を被っている。
 少しでも弱さを見せると、誰かにつけ入られることを恐れているようにも見えた。
「帰ろう」
 速水がそれだけを抑揚もなく述べて、私は素直に頷く。
 街路樹の影が延びた道を静かに歩く私と速水。
「酒でも飲みに行くか」
「――は?」
 速水からのお誘いに私は驚きを隠せず胸をどきどきと高鳴らせた。 
 私は少女か――それぐらい戸惑い、頬が赤く染まるのを感じ取る。
「嫌ならいいが?」
 初めて速水が口元を片側に吊り上げ、意地悪く笑う。
 そんな表情一つに私は目眩を覚え、馬鹿みたいに行く、行くと何度も答えた。












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