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エゴイストな夜 side3ー7 【後日編】






 桜に怒鳴られた綾子さんは、ついっと綺麗な瞳を僕に向けてくる。
「そうかしら、正樹君にも問題があると思うけど」
 あれ? 今度は綾子さんまで僕に責任転嫁してきているんだけど……
「綾子さんみたいに、女の塊に迫られたら……そりゃちょっとはぐらっとするっていうか……それは男のサガで仕方ないと思いますけど!」
「じゃあ、桜ちゃんも色っぽくなればいいんじゃない」
「はぁ? それって……胸が小さいって言ってます?」
 何だか……変なことになってしまった。
 どうして二人が喧嘩しているのかが分からなくなってきて、僕は困惑するだけで。
「あの、二人とも――」
「正樹君は黙ってて!」
 桜と綾子さんに一蹴されて、僕は怖くて口をつぐんでしまった。
 こんなのどうやっておさめればいいんだろう――。
 僕が困り果てて、その様子を見てしまうが、二人の言い合いはますます激しくなってきて。
「だから綾子さんが――」
「なによ、桜ちゃんが――」
 桜と綾子さんの喧嘩はヒートアップしだした時に、どんっと速水さんがテーブルを拳で叩いた。
「綾子、いい加減にしろ」
 速水さんの声音が低く発せられ、桜と綾子さんがぴたりと止まる。
 見れば速水さんがワイングラスを掴んだまま、ぶるぶると体を震わせていた。
 もしかして、凄く怒っているのでは……
 僕はそう思って、恐る恐る速水さんの様子を見てしまう。
「分かっているのか……綾子……もう、子供っぽい嫉妬は止めるんら……」
「止めるんら?」
 速水さんらしくもない噛み方だと思い、僕はじっくりと見てしまった。
「だって、この二人が最近すれ違っているから……仲を取り持とうと思ったんだもん」
綾子さんの本音に僕は絶句してしまう。
 綾子さんは桜を傷つけようとしていたのではなく、僕達の仲を深めようとしていたのだ。
「それが余計なお世話なんらよ……」
「だって、桜ちゃんはあなたの妹みたいなものでしょう。見舞いに行かなくなったのも正樹君に全てを任せたからじゃない」
「え……そうだったんですか……速水さん……」
 桜がずっと寝ていた時に速水さんは見舞いに来なくなった。
 もう桜のことはどうでもいいと僕は思っていたのに、そうではなかったらしい。
「あなたがあんな桜ちゃんを見るのが、辛いからって……言うから……私が悪役をかって、生命維持を外せって言ったんでしょう」
「え……そうだったんですか……」
 僕はまたまた新らしい真実を聞いて、何度も目を瞬かせる。
 そんなことをはじめて聞いたので、まだ頭が追いつかなかった。
「桜ちゃんは天涯孤独だし、守っていける家族を作ってあげたいって言っていたから私は協力したのに!」
 綾子さんがきーきーと喚き、速水さんの肩をゆさゆさと揺さぶった。
「もう、こんな時に酔っ払わないでよ」
「綾子……もう子供っぽい真似はするら……う……ん……なんか……眠い」
 速水さんが顔を真っ赤にして、ゆらゆらと身体を揺らしている。
 もしかして速水さんって、お酒が弱い?
「もう、寝ないでよ」
 速水さんはテーブルに突っ伏し、安らかな寝息をたてて寝始めた。
「あの綾子さん……結局は……僕と桜の絆を深めようとしてくれたんですか?」
 僕は恐る恐る聞くと綾子さんははぁと深い溜息を落とす。
「そうよ、ちょっとやりすぎたかもしれないけど。私、速水が大事に思っている桜ちゃんのこと妹みたいに思っているの。正樹君が奇跡的に桜ちゃんをこの世界に呼び戻してくれたんでしょ?」
「あ、はい……まぁ……そういうことになるのかも」
「ようやく桜ちゃんを守れる人が出来たっていうのに……最近、すれ違いが多いらしいじゃない。正樹君、受験も分かるけど塾ばっかりいってないでもっと二人の時間を作りなさい!」
 綾子さんが腰に手を当てて、びしりと僕を指差す。
「綾子さん、教師みたいですね」
「あのね、私は教師なの」
 綾子さんに言われて、ようやく本職を思い出した僕はあぁ、そうだったと間抜けにも納得する。
「はぁ……桜ちゃん、ソファを貸してくれるかしら。この人ったらこうなれば起きないから」
「え、ああ、はい」
 桜は我に戻り、ばたばたと動きだした。結局、僕は――いや、僕と桜は速水さんや綾子さんに心配をかけていたようで。
「あの、えーと、あのキスは……」
 僕はワインを口移しで飲まされたことを思い出し、桜に聞こえないように聞いてみた。
 すると綾子さんは肩を揺らして笑い声をあげる。
「嘘、あれをキスっていうの? ウブねぇ正樹君。私、帰国子女だからあんなの挨拶程度のものよ」
 けらけらと笑う綾子さんに呆気に取られて、僕はがっくりと肩を落とした。
――挨拶って……
 僕がどれだけ落ち込んだことか知らないだろう。
 綾子さんにとってはただの挨拶だが、僕は本当に桜を裏切ったと思ってしまったのに。
「それに、速水も桜ちゃんとキスしたことがあるでしょ。だから、おあいこよ」
 綾子さんがウインクしてきて、にっこりと艶やかに笑った。
「ともかく、ふらふらと色気に誘われちゃ駄目よ、正樹君」
 綾子さんはウインクして、酔い潰れた速水さんの介抱をしはじめた。
 色気って……そうそう綾子さんみたいな女性には出会わないと思うけど。
 僕はそう思ったが、口に出すことはなく落ち着いた桜と部屋にこもった。










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