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エゴイストな夜 side3ー2 【後日編】





  だけどその女性はにっこりと妖艶に笑って、僕のことをしげしげと眺めてくる。
「私は、速水の婚約者で綾子っていうの。君のこと、桜ちゃんから写真で見せてもらったことがあるの。へぇ、実際の方が格好良いのね」
 速水さんの婚約者と聞いて、かなり僕は面食らってしまった。
 綾子さんは美人だけど、桜とは対照的な人で驚いてしまう。
 桜は清廉な美しさだが、綾子さんは華やかな……いや艶やかな美しさ。
 速水さんってこんな人がタイプだったのかとぼんやり思ってしまった。
「もしかして、桜ちゃんを待ってるの?」
「えっ?」
 そこまで知られているのかと、僕は戸惑ってしまう。
「待っても無駄よ。今日は休校なの」
 綾子さんがそういうので、僕は何度も目を瞬かせてしまった。
 そんなことは桜から聞いていない。
 迎えに来れない僕に言っても無駄なのか、教えてくれなかった。
 それが少しだけ――いいや、随分と他人行儀な気がして悲しかった。
「私は忘れ物をしたから取りに来たんだけど……ねぇ、少し話があるの。付き合ってくれない?」
 何となく速水さんと桜のことを言いたいのだと勘づいたが、僕も聞いてみたいことがあったので、了承することにした。
 僕は綾子さんの背を見送り、校舎に視線を送る。
 携帯を取り出して確認してみたけど、やはり桜から連絡は入っていなかった。
 では今日一日、何をしていたんだろうと不安が広がっていく。
 そんなことを考えていると、綾子さんが戻ってきて駅前まで一緒に歩いていった。
「自転車は置いて、取りあえず御飯でも行きましょ」
 綾子さんはきびきびとしていて、さっさと場所も決めてくれる。
 僕は行ったこともないような、店で驚いてしまった。
 暗い階段を下り、黒服のボーイが重厚な扉を開いてくれる。
 室内は暗いが、僕は正面に見える大型の水槽に目を奪われる。
 テーブルとソファがその前に設置されて、水槽を鑑賞しながら御飯をいただくというものだ。
 綾子さんは手馴れているのか、ボーイに案内されてテーブルについた。
 テーブルにはアロマキャンドルに火が灯り、ロマンチックな演出を醸し出している。
 他の客達はグラス片手に、ソファで寄り添って水槽を泳ぐ魚を鑑賞している。
 大人の世界――僕はテーブルチャージがあることを知って、びびってしまった。
「大丈夫、大丈夫、私が奢ってあげるから」
 綾子さんはふふ、と笑いながら僕をソファに呼び寄せた。
「お酒飲んでいいかしら」   
 綾子さんは大人だし、お金は自分で払うのだから僕が駄目とは言えない。
 ワインを頼んだ綾子さんは、メニュー表から適当に注文してくれる。
 僕はその手際のよさに呆気に取られた。
 肩が触れ合うほどの距離に綾子さんがいて、香水の匂いが僕の鼻を掠める。
 甘くて、濃い――夜の香り。
 水槽の青いライトを浴びた綾子さんの横顔は綺麗で――大人の色香を湛えていた。
 速水さんと美男美女でお似合いだと僕は思ってしまう。
 大人の速水さんと綾子さんはいつもこういうところでデートを重ねているのだろう。
 桜も――?
 実際に桜の年齢は二十二歳の成人女性である。
 速水さんよりは年下だが、十分に大人の世界で遊べる年齢だ。
 本当は桜もこういう世界で遊びたい?
 だけど僕の小遣いではこのようにお洒落な店に連れて行ってあげられない。
 でも速水さんにはそれが出来る。
 やっぱり、僕は体だけ大きくなったただの子供で――。
 高校生の僕では釣り合わないのだろうか。
 やっぱり現実は手厳しい――。
 ぐだぐだと考えていると、僕の目の前にはジュースが置かれ、綾子さんの前には赤ワインが置かれた。
 黒服のボーイが少しだけ怪訝な表情をするが、つまみのチーズセットを置いて立ち去っていく。
 変な顔をするのも無理はない。
 僕は制服のままで、不似合いな場所にいて、隣りには色気むんむんの美女といるのだから。












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