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エゴイストな夜 side3ー1 【後日編】





 僕は高校三年生になり、お姉ちゃん――桜(本人は名前で呼ばれたいらしい)と順調な日々を過ごしていたと思っていた。
 桜は今までの遅れを取り戻すべく、今は定時制の高校に通っている。
 本来ならば二十二歳だけど、成長が遅れている桜の見た目は十六歳程度だった。
 色白で病気がちそうに見えるが、約八年ほどベッドの上で寝ていたのだから仕方ない。
 本人も通いたいと意欲を示したので、従兄弟のお兄さんによって手配された。
 お兄さんはその学校の全日制の教師をやっているらしく、婚約者も同じ教員だそうだ。
 それが僕にとって、大きな問題である。
 従兄弟のお兄さん――速水さんは、桜が目覚めると献身的に世話を焼いてきた。
 元々、速水さんが桜に特別な感情を抱いていたのは幼き僕にでも分かっていた。
 だけど桜にとっては、淡い初恋程度の相手で……僕のように命を預ける間柄ではない。
 だからもっと余裕をもって構えていればいいのだが、速水さんは、僕より匂いたつ大人の色香を放っていた。
 眼鏡が似合う、イケメンってところだ。
 その上、社会的地位もあるし、大人の余裕もある。
 びしりとスーツを着こなす速水さんは、教師というより、モデルみたいだった。
 大人の雄――始めて脅威を覚えた僕は憂鬱は毎日を過ごす。
 なんだか婚約者とも上手くいっていないようで、雲行きが怪しい。
 さっさと結婚すれば良かったのに。
 どうも、神様はいたずらが好きらしい。
 簡単にこの世を去ろうとした僕に試練を与えているのだと――そう思った。
 それにしては神様の試練は厳しいものだと、僕は頭を抱える。
 六年間も桜の見舞いに毎日かかさず行っていたのは僕で、速水さんは途中で諦めた。
 それに婚約者まで作ったのだから、桜のことはもういいのだと思っていたのに。
 桜が結局、速水さんがいいと言って、僕を見捨てたらそれこそ――死んじゃいそうだ。
 なんでそんなに気にしているのかって不思議に思うだろうけど、桜の送り迎えを速水さんはしている。
 定時制は夜だから、終わる時間になると外は真っ暗だ。
 それでは危ないと速水さんがわざわざ車を回している。
 僕には出来ない手段であった。
 僕は高校三年生で、それなりに成績も良かったから、大学へ進学しようと思っている。
 父もそれには賛成してくれて、今は塾に通わせてくれていた。
 結講なスパルタで、週三、四回は塾に通い勉強をしている。
 空いている日は桜の迎えに行きたいのだが、受験生の時間を取るのは悪いと言って断られていた。
 僕がこんなにやきもきとしているのに、そういう時だけ姉貴風を吹かせてくるのが腹ただしい。
「分かっていない、桜は」
 僕達は命を預けあった仲で、その約束はまだ守られている。
 お互いがお互いの命を縛り、勝手な行動は出来ない。
 桜はそれが分かっていないようだった。
 どうにかしないと速水さんに取られてしまうと思い、焦りだけが生じていった。
 そんなある日、僕は桜が通う高校に向かった。
 今日こそ、速水さんではなく僕が桜を送っていく。
――自転車だけど……
 正門で待っていたら、向こうから派手な女性が歩いてきた。
 高いヒールを履いて、こつこつと鳴らす。
 ブラウスの襟元は大きく開き、豊満な胸が見えそうでどきりとしてしまう。
 タイトスカートから覗く長い脚を見せびらかせながら歩く様は大人の女性で。
 顔立ちも派手で、全てが大きな造りをしていた。
 女性が近づいてきて、じろじろと上から下をじっくりと眺めてくる。
 居心地が悪くなり、身を引いていると女性は艶めく唇を動かせた。
「君、もしかして正樹君?」
 女性が僕の名前を当てたので、驚きの眼差しで見てしまう。
 美人だけどこんな知り合いは僕にはいない。
 きっと何かの間違いだと僕は思っていたのだ。











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