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エゴイストな僕 side1ー1





 そしてそれを実行すべく、僕は縄を手にして、裏山に入り込む。
 暗くて見えないが、月明かりがあるために、何となく道は分かった。
 ちょうど良さそうな木を見つけて、縄を引っ掛けると僕は首にかけた。
 これで終わる――地獄のような毎日から解放される。
 そう思うと、早くあの世へいきたかった。
 そうしたら苦しみから逃げ出せるから。
「お父さん、ごめん」
 それだけを言い残して、僕はこの世から去ろうとした。
 だけど――そういう時に限って神様は気まぐれないたずらをするのだ。
「何、してるの?」
 僕の死を阻むべく、澄み切った優しい声が響いてきて、どきりと心臓が飛び上がった。
 こんな時に、一体誰だろう。
 こんな場面が見つかれば、邪魔をされるかもしれない。
 僕は恐る恐る声のする方に顔を向けて、確認をしてみた。
「ねぇ、君は何をしているの?」
 ざあっと風が吹き荒れ、真っ暗闇の中に桜色の花びらが舞い乱れた。
 その桜の木の下で彼女がいたんだ。
 生命を燃やしているように、この暗闇の中で発光しているように見えて――それがあまりに美しくて桜の妖精だと思ってしまう。
 それが、僕と彼女の出会いだった。
 年齢は僕より年上だが、大人という感じには見えない。
 従姉のお姉ちゃんと同じぐらいで、少しだけ僕はほっとした。
「僕、死のうと思っているんだ」
 大人でなければ関係ないと思い、それだけを言ってみた。
 それでも死ぬと聞いたら、大抵の人は止めるのだろう。
 テレビでビルの屋上にいる人を説得している場面をよく見ていたから。
 でもお姉ちゃんは、ふぅんと言っただけであまり興味がなさそうだった。
 それがあまりにも連れない態度だったので、僕は一瞬死ぬ気が失せてしまう。
 少しぐらい止めてくれてもいいのに――そんな気持ちが湧いてしまった。
「首吊るの? 結講苦しいらしいよ。きちんと首に縄をかけないと、酸欠で苦しみながら死ぬんだって。それに、体の穴という穴から汁や尿や汚いものが全部出ちゃうんだって。それを検死で写真撮られちゃうんだよ」
 お姉ちゃんが僕の知らない首吊りの事実を述べてくれて、段々と気分が萎んでしまった。
 そんな死に様を写真に撮られるなんて、想像しただけで嫌になる。
 自殺する方法を改めようと迷いが生じた時に、お姉ちゃんが手を差し伸べてきた。
「ねぇ、どうせ死ぬんなら私に命をちょうだい」
 お姉ちゃんは無邪気に笑って言うけど、それが何だか残酷な響きに聞こえて。
「……でも、生きててもいいことないし」
 お姉ちゃんに命を預けたところで、楽しいことがあるとは思えない。
 そのぐらい僕の見える世界は真っ暗だ。
「それは君が考えることじゃない。もう君の命は私のものだもん」
 いつ、お姉ちゃんのモノになってしまったのかと眉をひそめるが、このままここにいても埓はあかない。
 自殺するのなら、違う方法にしようと思った僕はここから立ち去らなければならない。
「……じゃあ、いいよ」
 だから口先だけで、そういう契約を結んでしまう。









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