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エゴイストな僕 side1ー3【2】




* * *

「本当にいいの? 五大桜を見に行かなくて」
 僕達は家から近い裏手の山に来ていた。
 僕が初めてお姉ちゃんに出会った――この裏山。
 あの時の桜の木が少しだけ小さく見えたが、すぐに僕が大きくなったのだと気がつく。
 僕が小さい時にこの世を去ろうとした、あの時の記憶はまだ鮮烈に残っている。
懐かしく――そして切ない思い出の場所。
 お姉ちゃんも桜の幹に手を当てて、どこか懐かしむように瞳を細めた。
「もう少し体力がついたら……五大桜を見に行きたいと思ってる」
 お姉ちゃんは目覚めた後で、休養していたが退院することになり、あの家に戻ってきた。
 お姉ちゃんは栄養の偏りがあったのか、成長速度が遅いと医師は言っていた。
 本来ならば僕より五歳上なので、もう二十二歳のはずだが、初めて会った時の十六歳のままの姿だった。
 それはそれで可愛いから僕はいいのだが、お姉ちゃんはかなり気にしているようだった。
 どうも色気に欠けるという内容であったが、お姉ちゃんが本当に気にしているところは胸にあるらしい。
 よく胸を触りながら、首を傾げているところをみかけた。
 もう少し成長していて欲しかったと呟きを聞いたこともあったが、僕は知らない振りして上手くスルーしている。
「私ね、病院で寝ている時もたまに体を抜け出してうろうろしてたの。今、思えば幽体だったんだと思うけどさ。長い間眠っていたでしょ。もう、いいかって思う時は何度もあったんだよね」
 もう――いいかっていう気持ちは、死んでもいいか、ということだ。
 お姉ちゃんがそんなことを思っていたなんて、ちくりと胸が痛む。
 今も同じことを思っていたなら絶対に許さない。
 せっかく、僕と生きる為に戻って来てくれたというのに。
「でも、お姉ちゃんは目覚めた。それって僕に応えてくれたんでしょ?」
 僕はお姉ちゃんがそんな風に思っていないかを確認してみた。
「そうだね、もう一度、生きてもいいって思ったの。私が今度は君に命を預けてもいいって」
 お姉ちゃんがにこりと綺麗な微笑みを浮かべて、僕に視線を巡らせてきた。
 思いがけない言葉に僕はカァッと体が火照ってしまう。
 それって、好きというセリフより深くて重い気持ち。
 そんなこといいよ――なんて言葉は絶対に言わない。
エゴイストな僕はそれに応えるべく、命を預けられた瞬間から、お姉ちゃんの全ての世界をもらう。
 お姉ちゃんにそう言われた瞬間から僕はそう決めた。
「いいよ、お姉ちゃんの命は僕が預かる。これからお姉ちゃんの全ては僕のモノだから勝手なことはしないで」
「勝手? 死にたくなっちゃったから、死んじゃえみたいな行動?」
 お姉ちゃんはまだ分かっていないみたいだ。
 命を預けることはすなわち、自分の全てを投げ出すことで、僕がお姉ちゃんを支配出来る。
 六年間も散々、お姉ちゃんの目覚めを待たされた僕は本来ならもっとゆっくり苛めたかったけど、我慢が出来なかった。
 すぐにでも全てを支配したい――。
「お姉ちゃんがこの世界に絶望して、やっぱり死んでおけば良かった、なんて思わないようにしてあげる」
 他の男に色目を使わないこと、もちろん、付き合うことなど許されない。
 本当は喋ることすら嫌だし、視線を向けることだって許しがたい。
 それに――、それに――。
 他にも色々と思い浮かぶことはあるが、今はお姉ちゃんを僕に夢中にさせなければならない。
だからお姉ちゃんが文句を言うことは出来ない。
もう、すでに僕に命を預けたのだから。
そう、お姉ちゃんは僕だけのモノ。
 それには僕だけのモノにすること――それが一番、手っ取り早いことだ。
 あの夜、この世界に絶望した僕を生ある道へ戻したお姉ちゃん。
 今度は僕がこの生きる世界に、喜びを与えてあげよう。
「お姉ちゃんの全ては僕のモノ。だからお姉ちゃんに拒否権はない。分かった?」
 僕はお姉ちゃんの背中を桜の木に押しつけた。
 逃げられないように僕はすぐさま腰に手を回し、じっと見下ろした。
 するとお姉ちゃんはほんのりと頬をピンク色にさせる。
「お姉ちゃん……こんなに小さかったんだね」
 十一歳の時は抱きしめても、お姉ちゃんの胸の辺りしか頭がなかった僕。
 今は逆でお姉ちゃんが僕の胸辺りに顔がある。
 腰も細くて力を入れたら、ぽきっと折れそうでひどく怖かった。
「き、君が背が高くなっただけで……女性ならこのくらいの身長は普通よ」
 お姉ちゃんがさっきより頬を赤らめて、所在なさげに瞳を彷徨わせた。
 もしかして、照れてる?
 今は僕がリードする立場になり、どきどきと胸が高鳴った。
 小さい時などお姉ちゃんにいいように翻弄されていたのに。
「あの、もう……放して」
お姉ちゃんが身じろぎするので、僕はむぅっと眉をしかめる。
 その上、僕の腕の中から逃れようとするのだ。
「逃がさないよ」
 僕はお姉ちゃんの腰に回した腕に力を入れて、体を無理やり引き寄せた。
 やっぱり、お姉ちゃんは分かっていない。
命を預けたというのに、もう忘れているようだ。
きちんとこの体に教えこまなければ。
 そこで僕はあることを思いついたのだった。
「な、なに……その笑顔……」
 お姉ちゃんは怖々と僕を見上げながらも、頬を赤く染めている。
――やっぱり……照れてる
「可愛いね……」
 僕は耳元で甘く囁き、お姉ちゃんをもっと赤く染めようと思った。
「あの……近いよ……」
 お姉ちゃんの白い肌がピンク色に変わっていき、僕は言い知れぬ感情が湧いてくる。
――そうだ、いいことを思いついた
 僕はお姉ちゃんを見下ろし、ゆっくりと顔を近づける。
 そしてそれを実行すべく、僕はにっこりと笑ったのだった。








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17        side1-3【2】 end

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