先輩、僕の奴隷になってよ hold-9

hold-9




***


 尿を放出してしまうという、愚かな失態をしてしまった春香――。
 泣いたとしても、その過去が覆るはずもなく、穴があれば入りたい気持ち――いや、本当に死にたいと思ってしまった。
「先輩、大丈夫ですよ、ね?」
 廊下を歩いている時も優しく声をかけられ――ずっと愛斗に誘導されて、春香は風呂場に到着した。
「あ、えっと後ろを向いていますから」
 愛斗が慌てて後ろを向き、春香はのろのろと制服を脱いだ。
「こ、ここで待っていますね、先輩」
 脱衣所に愛斗を待たせるが、思った以上に動く範囲が狭いということに気がつく。
「し、シャワーに届かない」
 もう一歩で届きそうなのにシャワーヘッドに届かず、春香は踏ん張る。
「よし、これで」
 ぐっと前のめりになると、風呂場の扉がばーんと音を立てて開き、引っ張られた愛斗が倒れ込んできた。
「先輩っ……」
「ま、愛斗君っ!」
 目の前に立つ愛斗がじっと春香の裸を見つめ、顔を赤らめる。
(ひ、ひいっ! 私の貧相な体を見られている!)
「だ、駄目っ。こっち向いちゃ」
 春香は手で胸を隠したが、手錠が引っ張られ愛斗がもっと近くに寄ってきた。
「愛斗君っ、近寄っちゃ駄目」
「すみません、でも先輩が……引っ張るとどうしてもそっちに」
(ああああ、もうどうしたらいいの!)
 パニック状態になっている春香はまた涙目になってくる。
「と、とにかく後ろを向いて距離を取りますから……シャワーしてください」
 愛斗がくるっと背中を向けて、手錠が伸びる精一杯の距離を取った。
「ご、ごめん……愛斗君」
 年上だというのに今日で一気に立場は地に落ちたと春香はどんよりと落ち込む。
 ようやくシャワーすることが出来て、汚れを落としていった。
 そのあとで、愛斗が変わりにシャワーを済まし、トイレの前での粗相の片付けをする。
 たったの数時間のことだが、春香は一気に疲れに見舞われこっくりと船を漕いでいた。
「先輩……疲れたんですね……今日はもう寝ましょう」
 愛斗に優しく声をかけられ、自室に足を運ぶがここでも問題が生じる。
「ど、どうやって寝よう……」
 ベッドは一つしかないが、二人で寝るわけにはいかない。
「僕は床で寝ますよ、先輩」
 あっさりと愛斗が言うが、今は夏などではなく、肌寒い秋だ。床にそのまま寝たら風邪をひくのは目に見えていた。
「そ、そんなこと駄目よ。お母さんにお客様用の布団があるか帰って来た時に聞くから……今日はその……一緒に寝ようか……」
 自分からベッドに誘っているようで、やたら恥ずかしくなってしまう。
「え、でも、その……」
 愛斗がたじろぎながら頬を染める姿は胸をときめかせた。
「だ、大丈夫、襲うようなことはしないから」
 どっちが男なのだろうかという発言をして、春香は情けなくなった。
「あ、はは。そうですよね」
 愛斗は苦笑いを浮かべて、照れ隠しに髪を何度もせわしなく掻きあげた。
「そ、そうよ。だからもう寝ましょう」
 新婚のような初々しいやり取りだなと思いながら春香が先に布団の中に潜り込む。
 恥ずかしいのでくるりと体を反転し、愛斗がくるのを待った。
「じゃ、じゃあ先輩……失礼します」
 ぼそぼそと愛斗が恥ずかしそうに言いながら、そっと滑り込むように入ってきた。
 背中に愛斗の熱を感じ、春香の胸はばくばくと音を立てて鳴り響く。
(は、恥ずかしい……)
 それでもいつまでも意識していたら眠れない。
「ま、愛斗君……おやすみ」
 春香はそれだけを言って、ぎゅっと目を閉じた。
「はい、先輩。おやすみなさい」
 愛斗が優しい声音で囁き、ふっと緊張がほぐれる。
(あれ、安心したら急に眠気が……)
 春香の瞼は重くなり、いつの間にか意識が吸い込まれるように眠りの淵へ落ちていった。







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