先輩、僕の奴隷になってよ hold-27
hold-27
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「ねぇ、先輩……今日はこれつけて寝ようよ」
家に帰って愛斗が何かを取り出して、部屋に設置をする。
「それって……サークルの……」
いつの間にか愛斗が天文サークルから持ち出したプラネタリウムの装置がそこにはあった。
「文化祭当日はきちんと鑑賞出来なかったしね」
あの日は愛斗と手錠で繋がってしまい、催しものを鑑賞する暇などなかった。
そういう風に仕向けたのは愛斗だと言いたかったが、何倍にも返ってきそうで口をつぐむ。
胸中も知らずに愛斗はどこか上機嫌でプラネタリウムの装置を起動させた。
「あ……綺麗……」
カーテンを閉め切り、真っ暗になった部屋に映し出される星――。
ごろりと寝転がり、愛斗は天井を見つめたままふっと和らぐ表情をする。
「ほら、先輩も」
ぐいっと手錠を引っ張られて同じくごろりとベッドに仰向けになって、星の映る空を見上げた。
冬から春、それから夏に移り変わる季節の星を見ながら、愛斗はぽつりと囁く。
「天の川だね……先輩……」
煌く星のカーテンは夏の季節の天の川を天井一杯に映し出し、見る者の目を奪う。
(アルタイル……)
愛斗は天の川を見ながら自分が探している織姫を待ちわびているのだろうか。
文化祭前夜に一緒に見上げたプラネタリウム。
その時に愛斗が囁いた言葉を春香は今でも覚えている。
(私は愛斗君の織姫にはなれないの?)
手錠で繋がっているからこそ、一緒にいられるのであって愛斗に愛という特別な感情はないのだろう。
ただ――復讐の為に、春香を穢したいから隣りにいるだけで。
そう思うと美しい星が滲んできて見えて、心が痛くなってきた。
「先輩……?」
愛斗がいつの間にかこちらを向いて、驚いた顔をしている。
「泣いているの、先輩?」
「あ、ううん。綺麗で感動しちゃって」
腕で慌てて涙を拭い、唇を噛み締めたまま愛斗を見つめた。
するとすぐさま愛斗の美しい顔が寄ってきて、ちゅっと軽くキスをされる。
「……愛斗君……」
驚いて目を見開くと愛斗が、さきほどよりも深く唇を重ねてきた。
ついばむように優しいキスの雨を降らされると、いつの間にか涙は引っ込みみるみる顔が赤らんでくる。
愛斗にキスされるだけで、ほんのりと気持ちが温まるのはげんきんだろうか。
「可愛い、先輩……暗くても顔が真っ赤って分かるよ」
言わなくてもいいのに、愛斗はわざとそうやって春香の反応を楽しむ。
言われれば言われるほど頬は熱を帯び、身体まで火照り始める。
「やっぱり……先輩は笑った顔がいい」
愛斗がそう言い、もう一度だけ優しいキスをしてくれた。
「私も、愛斗君は笑っている方が好き……」
「え?」
愛斗が驚いたように目を見開くので、何かおかしいことを言ったのかと心配になる。
すると愛斗も暗がりの中でほんのりと頬を染めていくのが分かった。
(もしかして……好きって言葉に反応したとか?)
急に恥ずかしくなり愛斗から視線を逸らせると、満天の空を見上げる。
愛斗も黙ってしまい、同じように空を見上げた。
「このまま……時間が止まればいいのに……」
愛斗がぽつりと囁き、何度か瞼を伏せる。それが心から言ってくれているようで春香の気持ちはどきどきと高鳴った。
(私もこのままでいい……時間なんて過ぎなけれは……)
同じように思い、愛斗と一緒にいることを願う。
次第に眠くなっていき、気がつけば愛斗はすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。
「もう……言いたいことだけ言って……」
愛斗に振り回され春香はむぅっと頬を膨らませるが、それでもこの空間が心地よかった。
誰にも邪魔されずに二人っきりで見上げる、星の空――。
春香は降り注ぐ星の下で、愛斗とぴたりとくっつき安心するように眠った。
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