先輩、僕の奴隷になってよ hold-24
hold-24
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健二という男子生徒に会った日から、愛斗はどこかぼんやりすることが多くなった。
あれだけ春香を抱いていたのに、その日は帰ってから何もなかった。
興味を失ってしまったのかと思ったが、相変わらず手錠は繋がれたまま。
時に、両親に電話をして元気にしていると連絡を入れているのを隣りで聞いていたりする。
愛斗は天文学サークルの論文発表の為に、部員と長期合宿しているなどと嘘を並べて報告しているらしい。
それを信じる親も親だが、愛斗には絶大な信用を置いているみたいなのだ。
愛斗は電話で育ての親と話す時も、学園で演じている優等生の顔で対応していた。
それはどこか悲しいことで、春香には考えられない生活だった。
きっと愛斗は育ての親に対して、完璧であろうとしているのだろう。
本当の両親は他界して、親戚をたらい回しにされて非難を浴びてきた。
それを救ってくれた育ての親――その前だけでは優等生として、いや、いい子を演じて捨てられないようにしているのかもしれない。
愛斗の天使のような笑顔の仮面の下を見ているのは春香だけだったのだ。
(愛斗君……仮面の下を見せても人気でそうだけどな)
博愛主義の愛斗が一転、意地悪な王子に変わってもそれが悪の魅力だと今まで以上にモテるかもしれない。
そこまで思ってぶんぶんと頭を振り、考えを遮る。
(駄目、駄目、今まで以上にモテたらどうするのよ)
春香など相手にされなさそうで、女を取っ替え引っ変えする愛斗を想像して泣きそうになった。
(それって、雪哉みたいじゃない)
雪哉のにやついた笑みが思い浮かび、げっと眉根を寄せているとまた鼻を摘まれた。
「おい、春香ぁ、百面相するなよ」
雪哉がまた後ろを振り返り、春香にちょっかいをかけてくる。
「もう授業中よ、雪哉。鼻を摘まないでちょうだい」
「だって、いつも席が近いからつい春香の顔を見ちゃって」
雪哉の手を振り払い、むぅと顔をしかめるがふと気づいてしまう。
「そういえば、席替えしてもいっつも隣りか、後ろか、前よね。それにクラスも三年間……一緒……」
そんな偶然ってあるのだろうかと春香は怖くなってしまう。
もしかして雪哉が運命の相手で、実は相性がすっごくいいのではと。
「やっぱり……俺たちは一つになるべきだからな……離れても、離れても、引き合ってしまう……って、運命?」
雪哉がばちりとウインクしてきて、くすんだ金髪をばさりと掻き上げた。
「……へぇ……羨ましいですね」
どこか刺を含ませた言葉で、愛斗がいつもの天使の笑顔を浮かべる。
(あ……やばい……機嫌が……)
春香がごくりと唾を飲み込み、偽りの笑みを浮かべる愛斗をちらりと見つめた。
「そうそう、春香と俺は離れられない運命っての?」
雪哉が調子に乗り身を乗り出して、よしよしと春香の頭を撫で回す。
「だから〜、子供みたいにあやさないでよ」
これ以上、愛斗の機嫌が悪くなるのを防ぐ為に雪哉の手を払った。
「雪哉先輩って運命を信じるんですかぁ。見かけによらず案外、ロマンチストなんですね」
愛斗の瞳がすうっと細められ、怒りを露にさせる。
(ま、愛斗君……地が出てるよ……)
ひやひやしながら見ているが、雪哉は何も分かっていないようでにこにこと笑った。
「運命ってセリフ吐くと女はころっといくからさ。愛斗、試してみろよ」
「もう、馬鹿なことを教えないで。はいはい、前を向いて」
春香は無理やり話を断ち切り、雪哉の目の前でしっしっと手で追い払った。
雪哉が諦めて前に向いた瞬間、愛斗が手錠をぐんっと引っ張り春香はよろめく。
「放課後……お仕置きしてあげるね、先輩」
耳元で低く囁かれ、春香は乾いた笑みを浮かべるのであった。
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