先輩、僕の奴隷になってよ hold-11

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***

「すみません、先輩。狭くないですか?」
 愛斗と肩がトンと触れ合うが、春香は気にしない振りをする。
(愛斗君……やっぱり昨日の夜のことは覚えていないんだ)
 寝ぼけた愛斗に大事なところを弄られて、絶頂に達してしまった春香。
(昨日……この指で……)
 愛斗の繊細で長い指を見て春香はぽっと顔を赤らめた。
「あの、春香先輩?」
 指に集中していた春香は我に戻ると、愛斗の流麗な瞳を見つめる。 
「あ、うん、ごめんね。愛斗君……二年生なのに……三年の教室で勉強してもらって……」
 机が並べられ、愛斗は手錠が繋がったまま三年の教室で授業を受けていた。
「いいってことよ、春香〜理事長息子の俺が許可したんだ。遠慮するな」
 雪哉がくるりと振り返り、春香の机の上で肘を立てて顔を近寄らせてくる。
「あ、はは」
(絶対に楽しんでいるでしょう、雪哉)
 春香は乾いた笑みを漏らし、大人しく座る愛斗をちらりと見つめた。  
 だが、愛斗を見ているのは春香だけではないことに気がつく。
 クラスの女子がちらちらと視線を送ってきたり、じっと凝視している者もいた。
(うっ、視線がこわっ)
 春香は一躍有名になってしまい、休憩中には物珍しく見物しに来る生徒もいたのだ。
 もちろんファンクラブからは嫉妬されたりもしたが、愛斗がにこりと微笑んで僕が悪いんです――そう庇ってくれると場はあっという間におさまった。
「……先輩、ここ間違っているようですよ」
 愛斗をぼんやり見ていた春香はそう言われて目を瞬かせた。
 ばちりと視線が合ってしまい、春香は慌てて取り繕う。
「え、あ、なに、愛斗君」
 愛斗が指差すのは、問題集の答えである。
「へっ?」
 春香が視線を落とすと、愛斗がすっと体を寄せてきた。
(はぁ〜いい香り〜)
 愛斗の髪から香るシャンプーが鼻をくすぐってくる。
(って……私の家のシャンプーか……いっか、愛斗君ならなんでもいい香り〜)
「先輩?」
 愛斗が上目遣いで見てくるので、春香はぎょっと目を剥く。
(やばい、うっとりしていた)
「ここは、この方程式を用いて……こうですよ」
 愛斗が丁寧に教えてくれて、春香は唖然と口を開いた。
(三年の問題集なのに、愛斗君ってば解けるわけ?)
 そろそろと答えを見ると、ばっちりと合っていて驚いてしまう。
「す、凄いね……愛斗君」
「そんなことないですよ、先輩。誰でもこの方程式を使えば解けます」
 にこりと極上に微笑まれて、全てにおいて負けているとそう思った。
「はぁ……受験生なのに……愛斗君に教えてもらおうかな」
「僕で良ければお手伝いします、帰りに図書館で勉強などどうですか?」
(愛斗君が家庭教師か……夕暮れに染まる図書館で……へへ)
 だらしない顔をしていたのか、雪哉がむぎゅっと鼻を摘んでくる。
「おい、春香……いやらしい妄想していただろ……」
「はっ……鼻から手をどけてよ、雪哉」
 何かとちょっかいをかけてくる雪哉の手を払い、春香は自分の鼻を撫でた。
「雪哉先輩って……春香先輩のことが好きなんですか?」
 愛斗が二人のやり取りを見て、何気なく聞いてくるが雪哉はにやりと笑う。
「そう、俺って春香のことが大好きなの。二人は一つっての? 死ぬほど愛してるんだよねぇ〜」
 締まりなく笑う雪哉を見て、春香ははぁと長い溜息を吐き出した。
「はいはい、雪哉は他の女子にも同じことを言っているから、信用しない方がいいよ、愛斗君」
「はぁ……そうなんですか。それでも仲が良さそうで羨ましいです、僕」
 可愛いことを言ってくれる愛斗に春香はきゅんと胸を高鳴らせる。
 このまま手錠が繋がっていればいいのにと――その時まで春香は本気で思っていたのだった。










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