先輩、僕の奴隷になってよ hold【1】

序章 hold【1】

『拝啓

落ち葉が風に舞う頃となりましたが、いかがお過ごしでしょうか

お伺いしましたところご子息が七五三を迎えることで、心よりお祝い申し上げます

中略――

ご子息が健やかに成長しておられるのを我が子のように嬉しく思っております。

形ばかりではありますがお祝いを同封いたしますので、ご子息に何かを買って差しあげて下さい。

今後ともご子息が健やかなにご成長されるのますことを心よりお祈りし、まずは書中にてお祝い申し上げます』



 懐かしい手紙はすでに端々が黄ばんでいたが、久しぶりに見た時は何度も読み返したものだ。
 名もしらない足長おじさんは今でも些少ばかりのお金を用立てしてくれる。
 あれからもう何年も経っているのに――。
 連絡を取ろうと思っても、いつもと同じで差し出し人の情報はない。
 一体、あなたはどこの誰なのだろうか。
 そう静かな空間で問うてみても、答えは返ってくることはない。
 本当に存在するのかしないのか分からない、幻のような人。
 それでもたった一人だけの味方と思えて。
 これからすることに、足長おじさんは共感してくれるだろうか。
 そんなことをさせる為に、いつも見守っているのではないと激しく糾弾してくるだろうか。
 それでもあなたは僕の傍にいない。
 だから、たった一人で考えて行動するしか方法は残されていないのだ。
 繰り返し、迫ってくる狂おしいほどの気持ちはもう止められないところまできている。 
 自分の中にこのように烈火の如く、激しい思いがあるとは思わなかった。
 それでもどこかで、まだ今なら止められる――そう、心の声が聞こえてきた。
 だけどそれとは相反し、やはり止めるのは無理だと悪魔が囁いてくる。
 それを繰り返し考えていると、どんどんと不安は広がっていった。
 今も、ざわめく胸はなかなかと収まってくれない。
 目を閉じると瞼の裏に彼女の屈託ない笑顔が思い浮かぶ。
 華やかで眩しい――花咲く笑顔。
 邪気のない真っ直ぐな微笑みと、天真爛漫な態度は苛立たせると同時に切ないほど愛しく感じた。
 彼女はそのままでいい――曇りなき瞳でこれからも生きていけばいい。
 そう思いながらも、どこかではその清純な様をむちゃくちゃに穢してしまいたかった。
 これは一つの執着でもあり、恋ではないかと錯覚すらしてしまう。
 それが本当なら、随分と自分の愛は歪んでいた。
――いや、もう元から歪んでいるか
 馬鹿みたいなことを思ったと、自嘲の笑みを浮かべる。
 そうして毎日、彼女を思うたびにずきりと胸が痛み、決心が鈍ってしまいそうになる。
 窓の外に見える夕日の中に、彼女の笑顔が思い浮かぶまで考えてしまうのは重症だろうか。
 そのくらい彼女は自分の心の中に入り込み、逆に自分を掌握すらしてきている。
――駄目だ、このような曖昧な気持ちでは 
 窓から流れてくる肌寒い風が脳を冴え渡らせ、気持ちを引き締めてくれた。
――やはり僕の気持ちは変えられない
 揺らいだ気持ちを戻して、もう一度決心を固めた。
 そして、決意を宿らせた瞳をまっすぐに上げる。
 それはもう落ち葉が舞う季節に差し掛かる頃だった――。













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