河畔に咲く鮮花  




 * * *

 蘭は変わりないあばら屋へ足をそうっと踏み入れた。
――久々だわ、みんなに会うのは
 そこには懐かしき母と妹が気がつかずに、夕飯の支度をしている。
 前より良い台所とテーブルが置かれ、テレビも変えられていた。
 元気に暮らしている姿を姿を見て、蘭の胸は感動で詰まる。
「蘭ねーちゃん!」
 妹が気が付き蘭の元へ走り寄って来る。その声に母も驚き、蘭 久しぶりの再会を果たし、母と抱き締めあった。
 父と弟は仕事の為に今はいない。
 蘭が身売りした夜から、母はある人から仕送りを貰っているらしい。
 良い人のところに奉公へ行ったと家族達は安心していたと言う。
 仕送りをしてくれた方からは、蘭の様子の手紙も添えられて、家族達は状況を知っていた。
 しかも父と弟の仕事まで手配までしてくれたという。
「それよりあんた、いい人は見つかったのかい?」
 母の問いに蘭は眉をしかめる。後ろに控えていた公人も一瞬だが目を丸くした。
 銀から聞いたように、覇王の戴冠式後の婚儀は中継されていないらいい。
――やっぱり、世間にはもみ消されているんだわ
 覇王の妻になったと知れば、心臓が止まるかも知れない。
 嬉しそうに後ろに控えている公人に視線を投げてはひそひそと小声で話す。
「あの方は? 奉公に行った先の息子さんかい?」
 公人が貴族の息子と知れば、母はそれこそ椅子から転げ落ちそうだ。
「えっと、それは……」
 そこまで答えて、はっと口をつぐむ。まだ正式な妻ではない。そう義鷹の言葉を思い出し、雪の妻と言うことを躊躇った。
「そんなことより、お兄ちゃんにもお茶を出してあげなよ」
 妹が空気を読むように気を遣い、控えたままの公人を椅子に座るように促した。
「いえ、僕は一緒に座るなど恐れ多いことです」
 その物言いに母も妹もきょとんと目を丸くしたが、蘭に呼ばれて公人は不承不承座る。
「ごめんね、高級なお茶はないけど」
 蘭がこそりと公人に耳打ちするが本人は気にしていないようだった。
「いただきます」
 美しい所作で公人は安いお茶を口に含む。まずいはずだろうが、それでも表情を一つも変えない。
――まずいと表情に出すよりはましか
 蘭はそう考えて、自分も気にせずに家族との団らんを楽しむのであった。





 





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