河畔に咲く鮮花  

第二章 十一輪の花   1:春雷の夜


 
花見会深夜――

 雪の屋敷・蝶子の部屋

「あ、すご……光明……お前の体は……久しぶりだけど……いい……」
 蝶子は長い髪を乱して、光明の逞しい背中に腕を回した。 
「蝶姫様の囲っている小姓や、貴族の息子達より俺がいいでしょう?」
 光明は昼間の一件の後で、蝶子に呼ばれている。本当は蘭と雪が仲違いになり、一人で寝る雪をなぐさめる。
 そういう計画が密かに進行されていた。
 その為にわざわざ光明は雪の前で蘭にキスをして、怒りを買わせた。
 なのに、雪はそれでも蝶子を抱こうとしない。
 指一本、触れはしないのだ。 
 だからペットである光明を呼んで、火照った体を慰めている。
 ――本当に笑える話だ。
 雪のことはいけすかないが、女を見る目は共通している。
 どれだけ綺麗で血筋が良くても、裏では色んな男と浮名を流しているこの女より、純粋でなによりも美しい蘭がいい。
「ああ、やはりお前は最高に……いい……」
 光明の腕の中で蝶子は脚を自ら開き、腰を押し付けてくる。
 ――外は取り繕っても、中はただのあばずれだ
 光明はそう心の中で嘲り、淡々と腰を振る。
「織田に抱いて貰えない寂しさを紛らせているんですか? 蝶姫様」
 わざとそうやって、蝶子の鼻っ柱をへし折ってやる。
「お前っ……誰に向かって……そんなことを……」
「あたなですよ、蝶姫様っ!」
 光明の腰が深く蝶子の秘部に埋まる。こうしてやると蝶子はすぐに目をとろんとして、醜い喘ぎを漏らす。
「あっ……んっ……」
「どうですか? 蝶姫?」
 こんな女の喘ぎなど聞きたくもない。だが、権力者の娘だから抱く。
 ただそれだけだ。光明は野望を胸に抱き、仕事をこなすだけ。
「いいっ……もっと……深く……」
 蝶子の蕩ける声音を聞き、光明は薄く笑って、深く奥へとずぷりと埋め込んだ。
 そして激しく抽送を繰り返す。
 じゅぷりと蝶子と光明の接合部分が淫猥な音を立てた。
「ああ、やっぱりお前は最高……」
 蝶子がうっとりと光明に手を伸ばすが、光明は無機質な瞳で見下ろすだけだ。
「……キスは……しない男だったわね……」
 蝶子が思い出したように手をそろりと引っ込めた。
 光明は体を重ねてもキスはしない。そういう男だった。
「はい、キスはしません。誰ともね」
 そして冷たく見下ろしながら、腰だけを激しく揺さ振る。
 ――誰がお前にキスなどするものか
 この唇は一生、蘭だけのものだ。
 これも蘭だと思えば、自然に腰が揺れる。
 この時間をかけた長い野望がようやく実を結ぶ時がやってくる。
 それまでお前は利用させてもらう。 
「あっ……あっ! すごい……はぁっ」
 光明は何も感情もない瞳で見下ろし、蝶子が達するまで、行為を続けていった。

***

 カッ――と眩しい光が蘭の瞼を刺激した。
 ぱらぱらと雹が窓を叩き、蘭の意識も徐々に覚醒し始める。

 ――雨が降ってきたの?

 春に起こる雷は激しさを増し、雷鳴が轟きはじめた。
 ごろごろと耳に届く雷を聞きながら、蘭は布団の中に誰かが忍びこんできた気配を感じ取る。
「ゆ……き……?」
 雪が来たのかと蘭は徐々に意識を目覚めさせた。布団の中で蠢き、蘭の胸を撫で、首筋に吸いつかれる。
「……んっ……」
 まどろんだ意識の中でも気持ちが良くなり、蘭は自然に手を伸ばした。
 けれども髪形が違い、質も違う上、雪が付けていないピアスの音がじゃらりと低く鳴り響いた。
「だ、誰っ!」
 一気に脳は覚醒して、蘭は目を瞠った。
 布団の中から、ひょこりと悪びれもなく出てきたのは秀樹である。
 ここに秀樹がいるなど想像することも出来ず、蘭はまだ夢を見ているのかと目を白黒とさせた。
 秀樹と言えば、昼間にお花見に来ていた貴族の娘達をナンパしまくっていた。
 そのまま屋敷に泊まる客もいたから、蘭はその貴族の娘と間違えてこの部屋に来たのだと思った。
「あの……秀樹さん、部屋を間違っていると思うけど」
 おずおずと蘭は言って、間違いであると秀樹に訴える。
 秀樹はにこっと笑って、ほんまやって言うかと思えば、蘭に覆い被さってきた。
「蘭ちゃん、ごめんな。大きい声出したらあかんよ。こんなところ雪に見つかったら二人とも殺される」
 秀樹はすでに荒い息を吐き出して、蘭の体を押さえこむ。
「な、なにやってんですか」
 蘭はじたばたと体を動かし、秀樹の腕から逃れようとするが、びくとも動かない。
「あの日から、おかしいねん。初夜の日のことあったやろ? あれから蘭ちゃんのことばかり考えてもうて」
 秀樹から言われて蘭はカッと体が熱くなった。 
 初夜を迎えた夜、見届け人として秀樹は出席していた。
 随分と前のことだが、瞬時に思い出して蘭は顔を赤らめる。
 秀樹に、ともにも行為を見られ、ともには秘部を舐められた。
 秀樹にも蘭のあられもない姿を見られて、それを思い出すと、恥ずかしさで死にそうになる。 
「もう、蘭ちゃんの裸と喘ぎ声と、あの臭いが脳にこびりついて、他の女抱いても駄目やねん」
 秀樹ははぁはぁと息を乱して、蘭の胸をまさぐる。
「だからって、やめ……てっ」
 秀樹が強引に蘭の唇を侵し始める。舌が歯列を割り、遠慮なく口腔を貪った。
「ああ、蘭ちゃんの唇、柔らかいし甘いわ。これだけでくらくらする」
 秀樹は濡れた口角を舌で舐めとり、はぁと甘い溜息を吐いた。
「お願いですから、止めて下さい」
 蘭は今なら取り返しがつくと思い、秀樹にそうやって呼び掛ける。
「なにゆうてんの、覇者や貴族は夜這いや密会は当り前なんやで。それに今日やって、他の女の子の誘いを断って、ここに来たんや」
「そ、そんなの下慮の私には知る由もない、あっ……」
 秀樹は待ちきれないとばかりに、蘭の胸に顔を埋めた。そして、すぐに蘭の両腕は秀樹の浴衣の帯に寄って縛られ、梁となる柱にくくりつけられた。
「ごめんな、蘭ちゃん。雪にはばれんようにするから。俺も雪は好きやから、略奪しようとはせん。ただ一発、ヤラせて?」
 お茶目に秀樹は両手を合わせて拝むようにすると、ウインクしてきた。

 ――冗談でしょう

 蘭は危機感を覚えて、目を大きく見開いた。
「いやっ!」
 どかっと秀樹のお腹を蹴るとうっと呻きをあげる。
「あいてててっ、気ぃ強いんやな。そういう子、黙らすんの好きや」
 秀樹はますます楽しそうにすると、堪忍なと言って布切れを蘭の口の中に押し込めた。
「んっんんんっ」
 口に思いきり詰められてくぐもった声しか出てこない。
「ほな、いただきま〜す」
 秀樹は力強く蘭の浴衣を開いておお、と感嘆の息を吐いた。
「あ〜蘭ちゃん。夢にまで見た肌や〜。感触ええ。手に吸いつくし、滑々や。やばいな、一発じゃ満足いかんかも」
 秀樹はたらたら蘭の体の感触を説明して、両手で一気に両胸を持ちあげた。
「ああ、ぷるんぷるんや〜。ちょうどいい大きさやし、白くて綺麗や。この蕾もピンクでかわいい」
「んっんんっ」
 こりこりと秀樹が両胸の蕾を捏ね繰り回す。
「かわいい〜。こりこりして尖ってきた、気持ちええ?」
 蘭が答えられないのを知って秀樹はわざとそう聞いてくる。
「あの初夜の日から、揉みたかったんやで。もっと気持ち良くさせたるからな?」
 秀樹の顔が近付き、蘭の淡く薄づいた蕾を口に含んだ。
「ああ、おいしいわ。こりこりして、最高や。ずっとずっとこの胸にしゃぶりつきたくて、仕方なかったんやで」
 秀樹は舌先でぺろぺろと舐めたり、ときには軽く甘噛みしてくる。
「んんっっ!」
 蕾を甘噛みされて、蘭はびくりと反応してしまった。
「あれっ、蘭ちゃん? 今の良かった? 甘噛みされたことないの?」
 秀樹は嬉しそうに言って、しつこく蕾を甘噛みし始めた。
「んんっ」
 初めてされる行為に蘭はびくびくと背をのけぞらず。
「ちゅっ……かわいい……そんな反応されたら、もっとしてあげたくなるやん……」
 秀樹は夢中で蕾を弄り、舐め、噛み、そうされる度に、蘭の脳はくらくらとしてきた。
「ああ、もうここもぐしょぐしょ」
 秀樹の太ももが割り込み、蘭の足を押し広げた。
 伸ばされた手は蘭のショーツをなぞっている。
 秀樹がショーツの軽く叩くと、ぬちゅっと淫猥な音が響いた。
「そんないやらしい音させて。雪に聞こえるやろ? 蘭ちゃん」
 秀樹はそう意地悪く笑いながらも行為を止めてくれない。
 ショーツをぱんぱんと弾くように叩いて、わざと水音を響かせている。
「んんっんっ」
「もっとここを弄って欲しい? 分かった、蘭ちゃんのぐっしょり濡れてるとこ、生で触ってあげるから、ちょい待って」
 誰もそんなことを言っていないのに、秀樹は鼻歌を奏でて、蘭のショーツをひきずりおろした。
 そして、太い腕で蘭の両足は持ちあげられる。
「ああ、凄い、ぬらぬらしてやらしい。俺も脱いでええ?」
 秀樹は自分の浴衣も脱ぎ捨て上半身を露わにした。
 蘭は目を剥いて秀樹を見つめる。
 秀樹の腹筋は綺麗に六つに割れ、芸術品のようだった。
 腕も筋肉が盛り上がり、普段痩せて見える秀樹からは想像がつかない。
「あれ? 目ぇ丸くしてどうしたん? あっ、俺、ええ体してるやろ。着痩せするたちやねん。みんな、この体見たらメロメロになるで」
 逞しい体に抱かれる。一瞬、そんな想像をしてしまい、蘭はぞくりと背筋を震わせた。
「蘭ちゃん、俺の体に欲情したやろ。悪い子や。ここから蜜が溢れてきたで」
 秀樹はにやりと笑って、指先で蜜を掬い、自分の口に含んだ。
「うまい、蘭ちゃんの。甘くてやらしい味や。こんなん、飲んでたら癖になりそうや」
 呆けるように秀樹はちゅぱちゅぱと蜜のついた指先を舌で堪能する。






 





58

ぽちっと押して応援して下されば、励みになりますm(__)m
↓ ↓ ↓



next /  back

inserted by FC2 system