河畔に咲く鮮花  

     

 狂う日常@佑樹編

 佑樹はともに用意されていた別邸の部屋に入ると、すぐさまドアに鍵をかけて誰も入って来られないようにした。部屋をぐるりと見回すと、ベッドの横にホテルに預けていたトランクが置かれてある。どうやら初めからここに滞在させるつもりだったのだと気づくが、今は中を開いて荷物を出そうとも考えなかった。
 メインとなっている部屋から、つなぎ部屋が三部屋ほどあるようで靴を履いたままある場所を探して歩き回る。その時、ポケットから軽い振動がして煩わしさを感じながら携帯電話を取り出した。
「あ……」
 そこには、伊達家と懇意にしている真田家の唯直からのメールがきている。開いてみると、自分の義兄の政春のことについての内容だった。政春を伊達家に引き取るという話は元はと言えばから唯直から頼まれたことだ。
 幸か不幸か家朝の別邸に滞在出来ることになり、政春のことを交渉しやすくなった。経過の報告を約束していたのだが、今はそれよりも胸の内をせきたてることがあった。
 携帯電話を持ちながら、部屋を探索するようにうろうろしていると、目的の場所であるバスルームを見つける。バスルームの前には御影石で造られた重厚な洗面台があり、大きな鏡が張られていた。
 そこに視線を向けて自分の姿を映し出すと、ぬらりと艶めく蜜が頬と唇を濡らしているのが目に入る。
「あ、あ……」
 携帯電話を洗面台に置くと、我も忘れて頬に手を当てた。指の腹にぬめった感触が載り、それを鼻に持っていってすうっと吸い込むと、ぞくぞくと背筋が震えた。
「はぁ、はぁ……な、なんだろう。このいやらしい香り……」
 背中に奇妙なさざめきが走り、ぶるっと腰を震わせる。 
今度は唇の端に塗られた愛蜜を指で掬い上げて、恐る恐る口に含んでみる。仄かに塩辛い味のする粘ついた粘液を舌に絡ませて、思い切って飲み込んでみた。
「こんな味なんだ……」
 初めて口に含む女性の味は不快ではなく、不思議と身体の内側を熱くさせる。もう一度、吸い込みながら舐めてみれば、いやらしい芳香が鼻から抜けていって、興奮を高ぶらせた。
 この蜜が溢れていた女性の陰唇を思い出すと、下肢の中心が痛いほど張り詰めてくる。
「あ、あれが、あれが、女性の……」
 二十歳を過ぎて性的な知識はあるのだが、女性の器官を見るのは初めてである。まだ童貞である自分が卑猥なことを見せつけられた行為に驚きもしたが、その反面言い様のないほどの欲情を煽り立てられた。
 こちらを驚かせる家朝の悪戯めいた行為なのだろうが、佑樹にはすぐさま切り替える頭がない。きっと女性慣れしている人なら、悶々と引きずることはないのだろうが。
 今は家朝に紹介された女性のことばかりが頭の中を占めている。
「あの女性は誰なんだ……?」
 本多家の稲穂が花嫁候補として家朝の家に住まわせられている噂は知っている。だけど、今日見た女性はその人とは違ったようで……。
 それでも。
「ああ、美しい人だったな……どうしよう……こんなこといけないのに」
 佑樹はスラックスの前をくつろげて、下着を突き上げる己の欲望に手を這わせた。すでに興奮して勃ち上がった先端部分は、いやらしく粘ついた液が染みを作っている。
「あの人は、家朝様の婚約者……だけど、だけど」
 興奮は収まることを知らず、ますます角度を持って勃ち上がっていく。気持ちが昂り、とうとう欲望に負けてしまうと、下着からずるりと肉棒を取り出した。
 すでにいきり勃つ肉棒の鈴口からは、恥ずかしいぐらい欲望の蜜が溢れ出している。
「ああ、駄目だ、駄目なのに……」
 頬や唇に残る彼女の蜜をてのひらにつけて、自分の肉棒にいやらしく擦りつける。ぬるぬるとした感触に身震いし、意思とは反して扱き始めていた。
「はっ……あっ……凄い」
 張り出した亀頭に擦りつけ、濡れるてのひらで撫で回す。それだけでも快感が突き上げてきて、びくびくと腰を動かしてしまう。
 目を閉じると余計に感覚が鋭くなり、指を突き入れられる彼女の蜜口を思い出しては、自分のモノを扱き上げた。
「あっ、あっ、気持ちいい」
 いつもより興奮していて、喘ぐ声も大きくなっているのに気づく。そう言えば、部屋の窓が開いているかもしれない。声を押さえなければと思っていても、彼女のいやらしく蠢く媚肉が鮮やかに目の裏に浮かべば、興奮が止まらなかった。
「くっ……ううっ……あっ」
 彼女の蜜を肉棒に擦りつけ、扱いているなど変態もいいところだ。それでもあの匂いとくちゅくちゅと耳朶に残る卑猥な音を思い出すと、手の動きが止められない。
「挿れてみたい……挿れてみたいっ……挿れてみたい……くっ……」
 身体は欲望に忠実で、駄目だと思うほど背徳的な快楽に埋もれていく。彼女の中に指を突き立てる家朝のことが羨ましくあり、それを自分の置き換えてみる。
「彼女の中……熱いの? 柔らかいの? 締めつけがいいの?」
 それでも実際に経験したことがないため、彼女の中がどんな感触なのか分からない。だけど分からない分、想像が掻き立てられて興奮が募っていく。
「ううっ、くっ……」
 どれほどテーブルの下で欲望のままに肉棒を扱きたかったか。勃起しているのを知られたくなくて、必死で隠していたけど。
「ああ、俺、俺、変態だ……」
 余った片手で蜜が残る頬を撫で回し、顔全体に塗り込んだ。そのまま舌を突き出してべろべろといやらしい芳香のする蜜を舐めあげる。
 そうするといっそう、興奮が増して腰から痺れるような快美感が突き上げてきた。
「やば……ああ、イキそう……」
 いつの間にか腰を揺さぶりながら肉棒を扱き上げている。目を開けて鏡越しに見れば、興奮した亀頭が真っ赤に充血し、竿に至ってはびきびきといやらしい筋を立てていて、血の流れを感じるほど脈動していた。
「これ、これを挿れたい……くっ……」
 使用したことのない己は少しばかり長径であり、友人と風呂に入るたびに宝の持ち腐れと笑われていた。これを指では届かない場所まで突き上げて、浅ましいほど腰を揺さぶればどれほど快感だろう。
「ああ、彼女……蘭さんのイク顔を見たかった……」
 それが今になって悔やまれるが、それでも彼女のイク瞬間を吐息のかかる距離で見たのだ。家朝の指を奥深くまで咥え込み、収斂していた濡れ襞を思い出すと、自分の肉棒がぐっと質量を増した。
「あ、もう……イク……っ……」
 蜜に絡んだ肉棒を激しく擦り立てた瞬間、腰から強烈な痺れが突き上げてくる。それと同時に張り出した亀頭の先端から勢いよくびゅくり、びゅくりと熱い精が吐き出された。
「ああっ、くっ」
 ゆるりと扱き上げながら最後の一滴まで絞り出すように精を放つ。興奮していたせいかイッている時間がいつもより長く感じた。ぶるぶると腰が震え、しばしの間恍惚とした余韻に浸って乱れた呼吸をゆっくりと正していく。
「ああ、俺……」
 イッてしまった後は理性が舞い戻り、家朝の婚約者相手に自慰をしてしまったことに罪悪感を覚えた。
 そうだ、こんなことは許されない。二度と、彼女を汚してはいけない。これっきりにするべきだ。この一度だけにして、背徳的な行為は胸の内に秘めておこう。
 けだるい浮遊感と焦燥感とがない交ぜとなった中で、佑樹は固く誓ったのだった。









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