河畔に咲く鮮花  

     
 


 蜘蛛の巣に搦められて

 あの夜からともは徐々に行動を大胆にしていく。仕事をしている執務室で、夜は夕食を食べているリビングで、場所も時間もわきまえず蘭を抱擁しキスをしてきた。そして寝る時は必ずキスの嵐を身体の隅々に落とし、絶頂へと導く。
 それでもなぜか下着の上からの愛撫しかしてくれず、日を増すごとに身体が火照ってしまう。
 そんなある日、ともからアフタヌーンティに誘われた。
 邸宅の中心にある中庭には噴水が設置され、羽根を広げた女神像が裁きの杖を天高く掲げている。その周りを囲むように季節感を大事にした色とりどりの花を植えられた花壇が整然と立ち並ぶ。
 その景色を見られるように、精緻な文様が施されたテーブルと椅子が置かれてあった。そこにはすでにティーセットが並んでいて、席についた瞬間から洋菓子を食べられるようになっている。
 席につくとメイドが紅茶を淹れてくれて、蜂蜜の瓶をワゴンの上に載せるとすぐに立ち去ってしまった。
「この蜂蜜をいれようか」
 ワゴンの上に並ぶ蜂蜜の瓶は一つどころではなく、何種類も置かれてある。どれがいいか分からない蘭はともの選ぶ蜂蜜に決めてもらった。
 琥珀色に輝くとろりとした液体を蘭の紅茶の中に垂らされる。それをスプーンで混ぜていたら、ともは別の蜂蜜の瓶を手に取り、それを自らの紅茶に入れた。
「とも君は、同じ蜂蜜にしないの?」
「ああ、うん。僕は甘すぎるのが苦手で、こっちの控えめなものをいただくよ」
 彼が甘いのが苦手とは知らなかった。それなのに、洋菓子を並べてアフタヌーンティに誘ってくれる心遣いに感謝する。紅茶を口に含んで喉に流し込むと、それをじっとともに見られていた。
 なにか変な飲み方でもしただろうか。その視線にどこか居心地の悪さを感じながら、用意してくれた洋菓子に手を伸ばす。一口かじるとふわりと甘い香りが鼻孔を抜けていく。その後に舌に残るジンジャーのスパイシーさに目を瞠る。
「これ、美味しいね」
「そう、良かった。このお菓子は全部蘭に用意したものだから遠慮なく食べてね」
 ともが蘭の様子を見ながら、ようやく紅茶に口をつけた。美味しくて幸せな気分になるが、やはり彼の視線が気になる。ワンピースから出た鎖骨、露わになったデコルテ、胸の膨らみにじっとりとした視線が注がれ、じわりと奇妙な汗が滲んできた。
「どうしたの、蘭?」
「ううん、なんでもない」
 気にしないふりをして、紅茶を飲み続ける。その内、その瞳に情欲が宿るのを見てぶるりと身を震わせた。熱っぽい眼差しを振り払うようにして、紅茶を飲み干す。
「蘭、おかわりがあるけど、どう?」
 ともは蘭が応える前に椅子から立ち上がり、ワゴンに載せられているティーポットを手に取った。
「う、うん。お願いしようかな」
 なんとなく断れない威圧感を感じ、お願いすると優雅な所作で紅茶が注がれる。そのまま先ほどと同じ蜂蜜を入れられ、スプーンで掻き混ぜられた。ともがスプーンを紅茶から取り出した時、先端からぽとりと蜂蜜が蘭のデコルテに落ちる。
「あっ……」
 とろみを帯びた感触に身を震わせ、思わず熱い吐息を漏らしてしまった。それでもすぐに拭うことが出来ず、じっと固まったままになる。
 まただ。どうしてだろう。この頃、思考がすぐに鈍ってしまい、あんまり深く考えることが出来ない。早く拭かなきゃ、と思っているのにぼんやりとしてしまい、デコルテから胸の谷間へと蜂蜜が流れ落ちていくのを見つめるだけになる。
「ああ、いけないな。僕に拭って欲しいの?」
「え……」
 顔をゆるりと振り仰ぐと、蜂蜜の瓶を持ったともが天使のような笑みを浮かべている。その微笑みの中にもの狂おしいほどの熱を見て取って、ぞくりと背筋を震わせた。
 拒絶しなければ、と脳の片隅で警鐘が鳴る。だけど彼の色気を帯びた表情を見ていると、眠っている官能が揺り起こされてしまう。
 なんで? どうしてこんなに身体が火照ってしまうのだろう。
 彼の唇が、舌が、指が、身体の隅々を撫で上げるのを想像すると、自然に熱が灯り下肢が疼いてきた。一体どうしてしまったのだろう。じわじわと真綿で締めつけられ、淫らな感情に火をつけられているような感覚に身が震える。
「今日は暑いよね」
 彼を見上げていると、ともの指がするりと胸元のリボンを解いていく。それと同時に、瓶を傾けて蜂蜜をぽたぽたと蘭の身体にわざと落とした。
「う……んぅ……」
 少しだけひやりとした液が熱く火照った肌にすべり落ちて、それが妙に心地よく感じる。リボンが解けて、下着が露わになり、ブラで押し上げられた胸の上にも蜂蜜がこぼれ落ちていた。
「ああ、蘭。いやらしくて綺麗だ」
 芳しく甘い香りが蘭の身体を包みこみ、それを匂っているだけで脳がじんと痺れてくる。
 ともが瓶をワゴンに置いて、指の腹で蜂蜜に濡れた肌をなぞった。
「ふっ……んぅ……」
 ぬるりと滑る指に過剰に反応してしまい、身を震わせていると影に包まれる。気がついた時にはともの顔が落ちてきて、デコルテや胸の谷間に舌を這わせていた。
「はっ……ああっ……んっ」
 なんて甘美なのだろうか。熱い舌で撫で回されているだけで、いやらしくも胸の先端が尖りを帯びてくる。この行為がどんどん深まっていく濃密な気配を感じていたところ――。
「坊っちゃん、来客ですが」
 徳山が庭の端っこに立って、申し訳なさそうに告げてくる。蘭の肌を舐めていたともがゆるりと顔を上げ、あからさまに嫌そうに眉根を寄せた。
「この庭は人払いしているはずだけど」
「そうは言われましても、来客の予定があるのを忘れているのは坊っちゃんでしょう」
 初老の執事はともに不快な顔をされても、きっぱりと言い切る。さすがは幼少の頃からともの世話をしているだけあって度胸があるようだ。
「……で、誰だっけ?」
 ともも、徳山だけには頭が上がらないのか予定を聞き返した。
「伊達家の後継ぎ、佑樹様です」
 それを聞いたともは、ぴくりと片眉を上げて、仕方がないと言った風に片手を振った。
 庭に入る許しを得たことを知った徳山はお辞儀をして、颯爽とこの場を去って行く。ぼんやりとしていた蘭だが、なぜか伊達という名前を聞いて背中にじっとりとした汗をかく。
「私は席を外したほうがいいよね」
 きっと仕事の話だろうし、この場にいて邪魔はされたくないはずだ。ともは「そうしてくれる」と言った後に少し思案して、
「やっぱり、ここにいて」
 と気が変わったのか、そう提案してきた。
「え、でも」
「いいんだよ。今日は挨拶だけだろうし。僕の婚約者として蘭のことも紹介したいしさ」
 ともが退出しようとした蘭をやんわりと押しとどめる。本当は身体が火照っているために、この場所から立ち去りたかった。もう一度、部屋に戻ると言おうとした時、庭に入ってくるひょろっと背の高い男の人に目がいく。
 どうやらすぐ近くに待機していたようで、なぜかおどおどしながらこちらに向かってくる。
「あ、あの、伊達佑樹です。お初にお目にかかります」
 佑樹はテーブルの前にやってくると、緊張しているのかぺこぺこと何度もお辞儀をした。
伊達……。その名前を聞いた瞬間、蘭の背中につぅと冷たい汗が一筋流れ落ちる。なぜか怖くなって身体を固まらせていたけれど、当の本人は蘭の視線も気づいていないようで俯き加減でともの様子ばかり気にしていた。
「ああ、座っていいよ。ほら、紅茶を淹れてあげる」
 ともが座っていた椅子に促すと、佑樹が恐縮しながら座る。ともが佑樹に紅茶を出してあげると蘭の隣にどかりと座り、その音だけで佑樹がびくりと肩を震わせた。
 ともより上背があるのに、肉食獣に睨まれた小さな小動物に見える。伊達という名前を聞いて怖い気がしたけど、佑樹を見るとそんな気持ちは払拭された。
 襟足まで伸びた髪を忙しげに掻き上げて、長めの前髪の間からちらちらとこちらの様子を窺ってくる。挙動不審というか、気が小さいというか。
 私の知っている男とは違う……。
 そこまで思って、一体誰と比べていたのだろうかと我に返る。
「あ、あの、これ、お口に合うかどうか分かりませんがどうぞ」
 佑樹が上質な紙袋から洋菓子の箱を取り出し、テーブルの上に置いた。ともはちらりとそれを見ただけで、菓子折りには手をつけない。
「それで、伊達の当主は元気なの?」
「え、ええと、はい。父は至って健康です。家朝様にも今度ご挨拶に伺いたいと言っていました。そ、それに、その、俺が正式に後継ぎになることになったので、それをご報告に」
「ふうん」
「そ、それで、その、義兄のことなのですが……え、あ、すみません」
 ともの瞳が鋭くなったのを感じたのか、佑樹が肩を竦めながら謝罪する。そっちの話が本命だと知ってか、ともが土産用の菓子折りを押し返した。
「え、えっと、義兄を伊達家で処罰するのは駄目でしょうか」
 佑樹がぼそぼそと喋った後で、落ち着きなく身体を揺らす。ともはテーブルの上で指をとんとんと叩き、無言の威圧感を出した。なんとなく雰囲気が悪くなり、蘭は空気を変えようとティーセットに並ぶ洋菓子をトングで取って、佑樹の皿に載せてあげる。
「このお菓子は甘さ控えめなので、いかがですか」
 良かれと思って出したのだが、佑樹が顔を上げてこちらを見た途端固まってしまった。
「えっと、あの、あ、ありがとうございます」
 すぐに視線を逸らされ、彼がもじもじと身体を揺らした。その奇妙な態度に何か彼に対してしてしまったのだろうかと思ったが今は気にしないことにする。
「彼女は僕の婚約者なんだ。よろしく頼むね」
「婚……約者? あ、え、ああ、本多家のお嬢様ですか」
「いや、違うよ。だけど最愛の女性なんだ」
「え、えっと……」
 佑樹がどこか困惑したような顔で、蘭をちらりと盗み見た。蘭は蘭で、本多家の人と間違えられて複雑な心境になる。そう言えば別邸にいるとものお客さんは、いちると、その友達の名前が本多稲穂という人だったと思う。きちんと挨拶をしたことはなかったが、もし間違いでなければ義鷹が気に入り、彼女との密会を見てしまった相手だったような。
 義鷹と稲穂の交わりを思い出しそうになって、蘭はそれを掻き消すようにぎゅっと目を瞑った。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
 蘭の様子を窺ってくる声が聞こえ、伏せていた顔を上げると佑樹が長い前髪の中から覗き見て顔を赤く染めた。
 どうしたのだろう、と思っていると彼の視線が胸元に向けられているのを知って慌てて襟を掻き合わせる。先ほどから挙動不審だったのは、蘭の下着が見えていたからかもしれない。恥ずかしくてそわそわとしていると、ともが助け舟を出してくれる。
「取りあえず、君の義兄のことは善処する」
「ほ、本当ですか!?」
「もちろん、伊達家は全面的に徳川に協力するという誓約は結んでもらうけど」
「は、はい。それはもちろんのことです」
 どうやら話は良い方向に進んでいるようで、重苦しい雰囲気が和らいでいく。ほっとしているのもつかの間、テーブルの下からともの手が伸びてきて、蘭の太腿をねっとりと撫でた。
 びくっと身を震わせ、ともの手を押し返すがそんなことでは力は緩まない。
「ほら、紅茶を淹れてあげるよ」
 ともがもう片方の手でティーポットを持ち上げ、蘭のカップに並々と注いだ。その間もともの手が柔らかなシフォンスカートの裾をするすると持ち上げていく。
「蘭、紅茶を飲まないの?」
 ともの視線が流れてきて、蘭は顔を強張らせながらカップを口に含んだ。目の前には佑樹がいるのに、ともの繊細な指は弄ぶかのように内腿に触れてくる。
 すぐにでも止めて欲しくて彼の手を押しとどめるが、指は確信を持って秘部に迫ってきていた。際どいどころをなぞられると、収まっていた熱が再度燃え始める。
「ふっ……」
 くすぐったくて、小さな吐息が漏れてしまい慌てて口を噤んだ。それを見たともは微笑みを浮かべながら、佑樹と他愛のない話をしている。
「し、しばらくは仕事の関係で滞在するんです」
「へぇ、どこかホテルにでも泊まっているの?」
「え、ええ、ホテルを予約しています」
「だったら、キャンセルして別邸に滞在したらいいよ」
「え、ええ、でも」
 佑樹は驚きあたふたとしているが、ともの提案を断ることは出来ないだろう。悩みながらも彼は紅茶をごくごくと飲んでいた。その間もともの手は器用にも、蘭の下肢の際どいところを擦り、快感を与える。
 駄目、と手を押しのけつつもまた頭がぼんやりとしてきて、肌に落ちた蜂蜜の甘い香りに脳がじんと痺れる。このままでは佑樹に気がつかれてしまうと思い、なるべく平静を装うとするが、もじもじと腰が動いてしまう。
「――っ!」
 ともの手が下着の上から恥丘をなぞったことで、身体が過剰に反応してしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
 佑樹に聞かれ、蘭はひきつった笑みを浮かべるしかない。なんとか注意を逸らそうとするけれど、ともの手がますます過激になっていく。
 指がつーっと秘裂の間に滑り落ち、すでに快感で濡れそぼる蜜口に辿りつく。そのまま指を浅く埋められ、くちゅりと粘ついた音が微かに聞こえてきた。
「んっ……」
 小さくだが声が漏れ出てしまい、慌てて口を噤む。やめてくれるかと思ったら、ともの悪戯めいた指先はくちゅくちゅと泡立てるように蜜口を捏ね回した。
 それをされると身体が上気し、鼓動が速まる。毅然とした態度でいなければと思うのに、意思とは反対にだらしなく腿が開いて彼の愛撫を受け入れてしまう。
 その間、ともと佑樹は話をしているが、二人の会話がなにも入ってこなかった。テーブルの下で行われる背徳的な享楽に耽り、意識がそこに集中していた。
「あ、あの、暑いのですか?」
 佑樹が気遣ってくれたのか、蘭に質問をしてくる。だけど意識がそちらに向いていなかったから、受け答えが遅れてしまった。
「ああ、今日は陽気がいいからね」
 変わりにともが答え、空を仰いだ。蘭はなにか喋らないと変に思われると思い、考えていたらとうとう下着を横にずらされ、びくっと腰をしならせる。
「んくっ……」
「え、えっと、あの……」
 様子がおかしいと思った佑樹が蘭の顔をじっと見つめ、その後少し顔を上気させた。
「蘭、暑いみたいだね。顔を火照らせ、はぁはぁ喘いじゃって可愛い。なんか、感じているみたいに見えるよ。佑樹さんも恥ずかしがっているんじゃないかな」
「え、いや、俺はそんなことは……」
 照れながら下を向く佑樹を見て、蘭はどれだけ自分が淫らな表情をしているか分かってしまう。どうにか正気を保とうと背筋を伸ばしてみたが、無駄な抵抗というようにともの手が躍り出る。
「蘭、お客さんの前でそんな表情を見せちゃ駄目だよ?」 
悪戯に笑みを浮かべたともがぐっと身を寄せてきて、ずらした下着の間から密やかなる場所に直に触れてきた。今まで下着の上からの愛撫だったから、その生々しい感触にぶるりと身震いしてしまう。
「あ……、だ……め……」
 小さな声で拒絶してみたけど、ともの行為はますますエスカレートしていく。まるで佑樹にばれてもいいような調子で、ぴたりとくっつく花びらを割り広げ肉芽を揺すってきた。
「ふっ……う……」
 繊細な動きで肉芽を震わされると、そこが火を持ったように熱くなり疼きを増す。肉芽の形を確認するかのようにやわくねっとりとした動きに、官能が煽られどうしようもない快感に目眩を起こしそうになった。
「ふふ、そんなにだらしなく口を開いて駄目だよ。お客様の前なんだから。瞳も潤ませてさ、彼を誘っているみたいで、嫉妬しちゃうな」
「え、いや、俺は、その」
 ともにちらりと見られて、佑樹は蘭から視線を逸らす。だがすぐさま、視線を戻して蘭の顔をちらりと盗み見し、頬を染めた。
 やはり自分が欲情した顔をしているのだと気づき、引き締めようとしたけれどともが許してくれなかった。優しく擦っていた指は包皮ごと肉芽を捲りあげる動きに変わり、激しい快感に見舞われる。
「はっ……」
「ほら、暑いなら甘いものを食べて。これ、飲んで」
 ともが瓶にスプーンを突っ込み琥珀色の蜂蜜を掻き混ぜる。拒否する暇もなく、蜂蜜の載ったスプーンが口の中に運ばれた。量が少し多かったのか、口の端から蜂蜜がだらりとこぼれ落ちてしまう。
「いけないな。拭ってあげるよ」
 ともの顔が近づいてきたかと思えば、口の端にこぼれ落ちる蜂蜜を舌で掬いあげられ、そのまま唇を塞がれる。驚いてしまうが、甘い香りに脳が痺れて目がとろんとしてしまう。
「んっ……ふっ……」
 佑樹がいるのに、見せびらかすようにキスをし、それだけで終わらずに口腔内にも舌が忍び込んできた。甘露のようにとろりとした液体が口腔内を満たし、いつの間にか絡められていた舌を動かす。
「いいよ、蘭。とても甘い」
 舌がいやらしく蠢いて口腔内の粘膜を啜り上げる音に、淫靡な気持ちが湧き上がってくる。目眩がするほど濃厚で、淫らな口づけにうっとりと目を細めた。
 たっぷりと口腔内を侵された後、ともが唇を離す。ともは濡れた口角をぺろりと舐めあげると、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。
「ごめんね、話が途中になっちゃって」
 いつも通りのともに戻り、顔を真っ赤に染めている佑樹に視線を戻す。
「あ、いえ、俺は、その、だ、大丈夫です」
 せっかく滑らかに話しが出来ていたのに、濃厚な口づけを見てしまい彼は挙動不審に戻っていた。
 ともは気にしていないのか話しを再開し、テーブルの下でも行為を続ける。
「んくっ……」
 器用に包皮を捲り上げ、淫らに勃ちあがった肉芽が剥き出しにされた瞬間、びくんと腰がしなった。佑樹はともと話しをしながらも、ちらちらとこちらの様子を窺ってくる。
 おかしな人だと思われないよう姿勢を正すが、それを突き崩すようにともの指が肉芽を捏ね回して快楽を与えつけてきた。
 どうして、とも君はこんなこと……。駄目、駄目なのに。
 彼の気持ちをつゆほども理解出来ず、なにを考えているか表情を読み取ろうとしたが、そんなことは肉芽を扱かれるたびに薄らいでいく。
 蜜に濡れた指で淫らに捏ね回し、突いては膨れ上がった肉芽を摘み上げた。
「あっ……んぅ」
 今まで下着の上からの愛撫で焦らされていたものが、直に触られることで快感がいつもより増してしまい、このまま続けられればすぐに絶頂へと導かれてしまう。駄目だというのに、ともはそれを待ち望んでいるかのように、指淫をやめてくれなかった。
「はぁ……ん」
 思考が鈍り、霞がかった脳の中は快美感だけが支配してくる。いつの間にか甘やかな吐息が漏れてしまい、自然に身体を揺らしていた。
「蘭。大丈夫? 暑いならパラソルを持ってこさせようか」
蘭に快楽を与えている本人は涼しい顔で、そういう提案をしてくる。これ以上ここに人が来て欲しくないため、ゆるゆると首を振った。
「そっか。パラソル欲しくなったら言うんだよ」
 にこりと微笑みながらも、テーブルの下では蘭の肉芽を弄ぶ。息が上がり、視界さえも滲んできたところ追い打ちをかけるようにともの指が蜜口に這わされた。
「ああ、凄く熱いね」
「え、あ、そ、そうですよね。今日は特に暑いですよね」
 天気のことを言われているのだと思った佑樹は、これみよがしに片手で自分の顔を仰ぐ。だがともは、蘭の蜜口に指を忍ばせた時に放った感想だった。
 浅い部分を指でくちゅくちゅと掻き回し、淫らな蜜をわざと溢れさそうとする。
「な、なにか、音がしませんでしたか……?」
 ふいに会話が途切れた時、佑樹がきょろきょろと視線を彷徨わせた。これだけ近い場所にいるのだから、蜜を掻き回す音が聞こえていても不思議ではない。
「この庭は鳥も来るからね。その可愛い声かもしれない」
「は、はぁ……鳥ですか……」
 釈然としない顔をしながらも、佑樹はともの言うことに取りあえずは合わせるようだ。
 佑樹に聞かれたかと思うと蘭は気が気でなく、羞恥に顔を赤く染める。だからやめて欲しいのに、と目で訴えるけどともはにこやかに微笑んでいるだけだ。
 しかも指はどんどんと沈んできて濡れた隘路を緩やかに往復していく。繊細で長い指だけど、男らしく硬くしっかりとしている。それほど指の形が分かるほど、じっくりとした動きで熱く濡れた肉襞を擦ってきた。
「あっ……んぅ……」
 唇を噛み締めたつもりだったが、そのいやらしい感触に肌が粟立ってしまい声が漏れる。
「あ、あの、俺、えーと、なんの話でしたっけ……」
 さすがに佑樹もおかしな空気と勘付いたのか、気もそぞろに自分の髪や頬を触って落ち着きなく身体を揺らした。
「この紅茶、いい香りがすると思わない?」
 ともはとりとめなく言うと、すうっと肺から空気を吸ってその場に漂う香りにうっとりとした表情を浮かべる。
「え、ええ、香りですか……?」
 その時、ともの動きが激しくなりくちゅくちゅとした水音が静かな庭に響いた。
「そう、ねっとりとしてとても濃密。それでいて甘い香り」
「……」
 その芳香は蘭から放たれる蜜の香りであり、それに気がついたのか佑樹が言葉を詰まらせる。淫猥な熱に当てられたのか、その淫靡な香りと音に佑樹がもぞもぞと腰を動かせた。
「あっ、」
 ともがスプーンをわざとらしく地面に落とし、佑樹を見つめる。
「え、あ、お、俺が取ります」
 佑樹が慌てて腰を落としテーブルの下に潜ると、そこで行われている淫蕩に驚いて息を呑む。佑樹がすぐさま立ち上がろうとするが、テーブルに頭をぶつけてその場に蹲った。
「どうしたの、スプーンはあった?」
「え、あの、そ、それが」
 ともは足下に落としたスプーンを踏みにじり、佑樹に取らせないようにする。
「それ、気に入っているからきちんと探してね」
「え、いや、その」
 スプーンを取るにはともに近づくしかなく、佑樹は地面を這いつくばるように進んだ。
「と、とも君……」
 テーブルの下で、佑樹が近づいてくる気配を感じてともに振り向く。
「蘭、見せつけちゃおうよ」
「で、でも、こんなの恥ずかしいよ」
「僕も君の秘めたる場所を見せなくないけどさ、いやらしくて綺麗な蘭を自慢したいんだ」
「やっぱり駄目だよ……こんなこと……」
 頭ではいけないことだと思っているのに、身体は快感に震えて拒否できないでいる。ともに肌を触れられるたび、強い酒に酔ったような心地よさに支配されていた。
「本当に嫌? ここはそうだとは言っていないよ」
 彼の言う通りどんどんと蜜が溢れてきて、優雅な一時の中、卑猥な音を響き渡らせている。それでも脚を閉じようとしたら、ともの手がやんわりと押し開いてきて蜜口を優しく擦り立ててくる。
「んっ……ふっ……」
 ずっと下着越しで焦らされていたために、直接触れられてしまえば身体があっという間に綻んでいった。ゆっくりと掻き回され、形を覚え込ませるような動きで指が奥へと進んでくる。
「そうだよ、もっと僕の指で感じて」
 耳元に甘ったるい声が忍び込んできて、ぞくぞくと身体を震わせた。天使のように美しい顔が微笑みを漏らし、快楽の階段へ導いて行こうとする。
「んっ……」
 せめて声を漏らさまいと口に手を持っていて塞いでみるが、それを嘲笑うかのように指がある一点をくすぐる。
「あっ……やぁっ……」
 つい大きな声を上げてしまい、慌てて唇を閉じた。
「ああ、やっぱりここがいい?」
 低く漏らされた声が気になってしまい、彼の方に顔を向ける。ともはうっとりとした表情で、さも嬉しそうに口角を上げた。
「蘭のことなら、なんでも知ってるよ。ここ、気持ちいいでしょ」
 蜜口の入り口部分の膣肉をくっと折り曲げた指で押し上げられる。それだけで達しそうなほどの快感に震え、ぶるぶると腿をわななかせた。
「ほら、臍の裏のところ。このざらざらした場所が蘭のいいところ」
「あっ……ふっ……そこは、だめ……」
 蜜に絡んだ指がぬるぬると肉襞の表面を滑らせ、散々焦らしてはぐっと柔らかい肉を刺激してくる。あまりの気持ち良さにもっとして欲しいと、脚を広げてしまった。
「あ、はっ、ううっ」
 その時、蘭の脚に熱く濡れた吐息がかかると同時に苦しそうに呻く声が聞こえてくる。佑樹のことをすっかり忘れていた蘭は、間近な距離でこの痴態を見られていると気づいた途端羞恥心で身体がカッと火照った。 
「あ、やっぱり……だめ……」
 一瞬だけ理性が舞い戻り、ともの手を押しのけようとする。ともは蜜口に指を挿入したままで動きをぴたりと止めてくれた。分かってくれたのかと思えば、
「直接、指でイキたくないの?」
 恐ろしいほどの誘惑めいた口調で、蘭の理性を揺さぶってくる。躊躇いが生じ、迷っていたところ指がゆっくりと引き抜かれていった。
 喪失感に襲われ、ともの顔を見ていると今度は二本の指が隘路を旋回するようにねじ込まれる。
「はっ……あっ……いや……ぁ……」
「本当に嫌? 蘭の中は喜んでいるよ。ほら、聞こえる?」
 束ねられた指が内奥を縦横無尽に動いて、溢れてくる蜜をぐちゃぐちゃに掻き回した。
「ううっ、ああっ」
 恥ずかしいほど蜜を溢れさせるたび、佑樹の興奮した声と荒い息遣いが聞こえてくる。彼の声が届くたびに理性を押しとどめるが、ともの指があっさりとそれを打ち壊してきた。
「蘭、いいよ。もっと気落ちよくなって。僕にイッた顔を見せてよ」
 くちゅくちゅと水音をたてられ、妖しく淫靡な香りが庭園の花と交わり、なんとも言えぬ濃密な空間に溺れていく。むせかえる甘い香りは、自分から発せられるものだろうか、それとも咲き乱れる花の蜜なのだろうか。
 脳が痺れ、なにも考えられないほどぼんやりとしてくる。
「君の中、熱くて柔らかい。もう、堪らないよ」
 欲情に掠れた声すら快楽を満たすスパイスとなり、徐々に官能が責め立てられていくと身体の奥が熱くなってきた。このままではすぐに達しそうになり、ゆるゆると首を振る。
「も、やめて……いや……」
 必死で拒んでいるのに、淫らな指は性感帯を何度も強く押してきて、さらに官能へと導いて行こうとした。濡れた襞を拡げ、感じる場所ばかり突かれると甘く痺れるような疼きに責め立てられる。
「どうして嫌って言うの? もう、イキたくて仕方がないんでしょ。いや、いやって言う割には僕の指を咥え込んで離さないじゃない」
「あっ……んぅ……で……も……」
「客人のことを気にしているの? 大丈夫。テーブルの下では蘭のイッた顔は見えないよ」
 その言葉が引き金になり言い難い解放感に襲われると、何度も突かれる膣肉がいやらしく蠢いた。その変化を知ったのか、ともが密やかに笑みを漏らし、動きを速めていやらしく濡れ襞を揺さぶる。
「ああっ……んぅ……」
 膣肉が生き物のように卑猥にわななき、ともの指をぎゅうぎゅうと締めつけた。この痴態を佑樹に見られているのに、どうしようもなく物狂おしい感覚にとらわれる。恥ずかしいけれど、蠢く蜜口を熱くねっとりとした視線で見つめられていると思えば、恐ろしいほどの快感に煽られる。
「も、だめぇ……」
「うん、いいよ。蘭の可愛くていやらしい顔を見せて」
 ともの指が先ほどとは打って変わって動きを速め、欲情を掻き立てていく。ぐちゅぐちゅと卑猥な音を聞いていると、脳の中も一緒に掻き回されている気分になり、下肢からせりあがってくる感覚に喉をのけぞらせた。
「だめ……っ……も……だめ……ぇ……」
 性感帯の一点を突き上げ、媚肉を振るわせる巧みな指使いに呼吸が乱れてくる。長く硬い指が膣肉の間に潜り込みリズムよく踊り狂うと、目眩がするほどの快美感に襲われる。
「ひゃっ……あっ……ああっ……んぅ……」
「いいよ。僕の指で可愛く啼きながらイッて」
 濡れ襞を引き伸ばされながら、感じるところを重点的に責め立てられれば、腰がぶるぶると震えいつの間にか甘やかな声を上げていた。弾む呼吸と同時に、テーブルの下では佑樹がじっと息を詰めている気配が感じられる。
 彼も蘭がイクのを待っているのだと想像してしまうと、欲情を煽られ淫らな気持ちになってしまった。
「ああっ、やっ……だめぇ……っ」
 愛蜜を指に絡ませたまま、ともの動きが奔放なものになっていくと、快感の波が絶え間なく押し寄せてくる。身体の中心が熱を持ったように火照って、いやらしく腰を揺らめかせてしまう。何度も指を突き立てられ、狭い襞を指で押し広げてぐりぐりと気持ちいい場所を掻き回した。
「ひゃっ……あっ……ああっ」
 淫らな指に弄ばれていると、それは唐突にやってくる。ともの指が膣肉を押し上げてそのまま柔襞を激しいとも言える速さで擦り立てられると、強烈な快感に襲われ、下肢の熱が一気に放出された。
「ああっ……んぅ」
 甘くも衝撃的なほどの痺れがつま先から這い登り、全身に駆け巡っていく。ともの指をこれとないほどぎゅうっと締めつけて、腰をびくびくと震わせた。
「ううぅ、くっ」
 テーブルの下で興奮めいた佑樹の声が漏らされて、はぁはぁと荒い息を蘭の脚にかけてくる。それがくすぐったくて身悶えていると、ねっとりと粘膜をなぞりながらともの指が蜜口から引きずり出された。
「凄く、可愛かったよ」
 うっとりとした表情を浮かべ、ともが口の端を上げる。それと同時にテーブルを横にずらし、その場に這いつくばる佑樹に視線を落とした。
「あ、あ、あ、あの」
「あれ、まだスプーンを拾っていなかったんだ。ほら、ここにあるよ」
 ともが足をどかせると、その下に落ちたスプーンが姿を現す。佑樹は顔を紅潮させながら、のろのろと緩慢な動きでスプーンを拾うと、ともを見上げた。
「ああ、ありがとう」
 ともはスプーンを受け取ると、ねっとりと濡れ光る手で佑樹の頬から唇をなぞっていく。
「ううっ、はぁはぁ……」
 媚肉を掻き混ぜたいやらしくも甘美な芳香のする愛蜜を塗りたくられ、佑樹はますます顔を赤らめた。 
「だ、駄目だよ。そんなことしちゃ」
 蘭は脚を閉じて、スカートのポケットからハンカチを取り出す。蜜を塗りたくられた佑樹の顔を拭こうと思ったけれど、彼は慌てて身を引いてさっと立ち上がった。
「ふ、拭いてもらうなんて、お、畏れ多いです」
 佑樹は恐縮しながら、もじもじと身体を揺らしながらやんわりと断ってくる。蘭は親切心よりも、恥ずかしいから早く拭きたいと思っているだけなのに。
「蘭、いいって言うんだからいいじゃない。彼は早く別邸に行きたいんだってさ」
「は、はい。お言葉に甘えさせてそうさせていただきます」
「庭の向こうに見えるのが別邸だから」
 ともの視線がちらりと佑樹の後方にある、白い壁に囲まれた屋敷に目を向ける。蘭も一緒になって、ぼんやりとあそこにいちると稲穂がいるのだと虚ろに二階の窓を見上げた。
「滞在中なら、いつでも本宅に遊びに来て。蘭のお茶飲み相手にでもなってあげてよ」
「え、あ、は、はい」
 佑樹は戸惑いながらも、赤い顔をこくこくと何度も縦に振った。ともがひらりと手を振ると、佑樹は弾けるようにその場から走って去っていく。
 遠ざかる後ろ姿をぼんやりと見つめていたら、ともがそっと身を寄せてきた。
「ね、もう一度気持ちよくしてあげる」
 甘く優しいのに、どこか有無を言わさない強い響きに逃れられないようなものを感じてしまう。誰もいなくなった庭に静寂が戻ったかと思うと、ともの手が下肢に伸びてきてまだ濡れそぼっている蜜口に指を這わせる。
「ああ、すっごく熱い。それにお尻の方まで蜜が垂れているね」
 指が後孔の方まで伸ばされ、会陰に溜まった蜜をねちゃりと撫で上げた。それを掬い上げるように指に絡ませ、それごと蜜口にねじ込まれる。
「んっ……ああっ……」
 緩やかな抽送が始まり、無理やり官能を呼び起こされていく。達したばかりの身体は敏感で隘路をぬるぬると抜き差しされるだけで背がのけぞってしまう。
「そうだよ。もっと僕の指を感じて」
「も……だめ……なの……」
 腰の位置をずらすと、彼は蠱惑的な笑みを浮かべた。やんわりと身体を抱擁しながら、その行動とはうらはらに動きを拘束する。
「じゃあ、今度は奥を責めてあげるね。指じゃ我慢できなくなったら言って」
「あ、ああっ……」
 束ねた指が奥へと滑らされ、濡れた襞を縦横無尽に掻き混ぜた。甘く身体を縛りつけられて、蘭は喉をのけぞらせながら空を見上げる。脚を大きく開かされて、彼の指が深いところまで沈んでくる。その巧みな指使いは快美感を揺さぶり、すぐに淫らな気持ちへと落とされていく。
 不思議と彼の指がしっくりと馴染み、突かれるたびに中が歓喜にわなないた。婚約者というのは間違いないことを証明するかのように、蘭のいいところを責めてくる。
「蘭、今度は僕のを挿入してあげるね」
 直接、耳に吹き込まれる淫靡でねっとりと艶を含んだ声にぞくりと肌が粟立った。それにはまだ抵抗があると言いたいのに、彼の抱擁が強くなって蘭を椅子に縛りつける。
「じっとしてて。君は僕に全てを委ねてたらいいから」
 彼の瞳はまるで逃さないと言った強い執着があるように見えて。蘭は木の枝に張られた蜘蛛の糸を見ながら、自分はそれに搦め捕られた蝶のようだと、どうしてかそう思った。








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