河畔に咲く鮮花  



 
 
残酷な命令B
 
 義鷹はともの言う通りにするしかなかった。
 蘭に冷たい言葉を浴びせかけ、自分から離れるように仕向けるのもともからの命令の一つだ。さきほど彼女が驚き、その後沈んでいく表情を思い出すと胸がちくりと痛む。
 だけどそうしなければこれから蘭に会うことも許されないだろう。
「義鷹様?」
 ふいに声をかけられ、目の前の稲穂に焦点を合わせた。
「ああ、もう埃は取れましたよ」
 稲穂の髪から手を離して、少しだけ彼女から距離を取る。間接照明の中で浮かび上がる彼女の雰囲気は蘭によく似ていた。これから彼女と蜜事を交わすのかと思うと、罪悪感とも言える感情が芽吹いてくる。
「あの、なにかお話があるのですよね?」
 稲穂を別邸のゲストルームに呼んだまま、なにも言い出さない義鷹に困惑しているのだろう。彼女は不思議そうに首を傾げながらこちらを目だけで見上げていた。
「ええ、まあ。その前にこちらをどうぞ」
 テーブルの上に用意してあるグラスにワインを注ぐと彼女に見えないように、内ポケットから小瓶を取り出し何滴が垂らした。そして小瓶をまたしまい込み、ワイングラスを稲穂に手渡す。
「さぁ、どうぞ」
 自分には何も仕込んでいないワインをグラスに注ぎ、稲穂と向き合った。
「では、少しだけ」
 遠慮がちに稲穂は頷いて、ワインを口に含む。それを見ながら、義鷹自身もグラスに口につけた。
「まぁ、飲みやすいですわね」
 彼女は義鷹がこれからなにをするか想像もしていないのだろう。にこやかに笑みを浮かべ、警戒心の欠片もないままワインをごくごくと飲む。ほどなくして稲穂の様子に変化が現れる。ワインに入れた媚薬が効いてきたのだ。だけどなにも知らない振りをして、彼女を見ていた。自分の中の変化に気づきながらも、必死で頭を振って正常を保とうとする姿は痛ましい限りだ。
「どうかなされましたか?」
 ああ、なんとわざとらしいのだ。臭い演技に笑いがこみ上げてきそうなのをぐっと我慢して稲穂を心配そうに見つめる。一歩彼女に近づき、手を伸ばし羽根で触れるように肩を撫でてやれば、身体をびくりと過剰に反応させた。どうやら特性の媚薬が効いているらしい。
「あ、ごめんなさい。お酒が思ったより強かったみたいで」
「それはいけませんね。少し横になられては」
 眉を下げ、声のトーンを少しだけ低くする。こんな表情はお手の物だ。彼女は貴族である自分がなにかをしてくるとは疑っていない。しかも、ここは覇王の目が届く場所であり彼女自身が花嫁候補だと思っているため警戒心が皆無だった。
 腰に手を当てて、ゲストルームにある大きめのベッドまで誘導する。
「少しお休みになられては」
「ええ、でも」
「心配なさらずとも大丈夫です。水もいれましょう」
 稲穂がベッドに横になったのを見て、テーブルの上の水挿し瓶を持ってコップに注ぐ。それを稲穂のところまで運んだが、すでに目の焦点が虚ろだった。
「稲穂様、起き上がれますか? 冷たいお水を持ってきましたよ」
「え、ええ、ありがとうございます」
 なんとか起き上がろうとしたが、媚薬の効いた身体では上手くいかないらしい。義鷹は自分の口に水を含み、稲穂の唇を塞いで流し込む。
 冷たい水で喉を潤わし、ぼんやりした意識が一瞬舞い戻ってきたのだろう。彼女の目は驚きに見開かれ、一生懸命義鷹の胸を押し戻そうとする。その手を強く握り締め、彼女の動きを封じ最後まで水を流し込んだ。
「よ、義鷹様、なんてことを」
 唇を離した直後、汚らわしいと言った目つきを義鷹に向けて投げてくる。その非難を込めた視線が義鷹の気持ちを逆撫でした。こちらも本音を言えば、相手すらしないというのに。だけどここでありのままの感情を出すのは得策ではない。ざらつく気持ちを押さえながら、彼女の手を掴んだまま耳元に唇を寄せた。
「初めて見た時から、お慕い申し上げていました」
 柔らかく、甘い囁きを落とす。そんなことで彼女の気持ちを掴むことなどできるわけもないのを知って。
「おやめ下さい。わ、私はっ」
「どうして否定なさるのです。あなたより下の階級の私から告白されるのは不愉快ですか?」
「そういう問題ではありません。私には、他にお慕いする人がいます」
 その相手から、あなたを籠絡させろと命令されたと言っても好きでいられるだろうか。
 稲穂も所詮利用されている駒の一つなのだ。少しばかり憐憫の情が湧くが、それでも今は蘭のために目的を遂行させてもらう。
「本当にその方が好きなのですか? その割には私が側にいるだけで息が弾んでいるようですが」   
「ち、違いますっ、これはお酒のせいです」
「では、確かめてみましょう」
 流れるような動作で、耳元から彼女の首筋に唇を滑らして軽く食んでみる。媚薬の効果でうっすらと汗ばんだ首筋は少しだけ塩辛い。それが自分の感情と同じものだと思うと、なぜか胸が詰まった。
「うぅ……ん。や、やめてください」
「可愛らしい声が出ましたね。もしかして感じているんですか」
「そんなわけありません」
「では、もっと試してみましょう。他の方が好きなのであれば我慢できますよね」
「や、やってみれば納得してくれますか。わ、私は、そんなことに屈しませんから」
 まともな感情であれば、おかしなことを言っていると気づくはずだ。だけど、稲穂は媚薬のせいで随分と思考回路が鈍っているように見える。いいがかりとも言える義鷹の提案を鵜呑みにしているようだ。
 震える身体にのしかかり、逃さまいと動きを固定する。間接照明に照らし出される稲穂の瞳は潤いを帯びて、なんとも言えぬ艶やかさを滲ませていた。
「綺麗ですよ」
 それはお世辞ではなく、心からの賛辞だ。今ならともの気持ちも分かる気がする。角度によって彼女は非常に蘭に似ていた。その蘭との狂おしい夜を思い出すと、身体の芯が熱くなる。
 呼び起こされる衝動をなんとか押さえつけ、稲穂の身体のラインを手でなぞった。びくびくと身体を跳ねさせ、艶やかな溜息を彼女が落とす。
「触れますよ。いいですね?」
 わざわざ許しを乞うような、およそらしくないことを言い、ゆっくりと鎖骨を撫でた。それから胸の膨らみに到達し、服の上から蕾の周りを焦らすように撫で回す。
「ふっ……んぅ」
 くすぐったいのか、稲穂が唇を噛み締めて腰を揺らす。触れるたびに身体がどんどんと熱を帯びていき、吐息が艶めいたものになっていった。
 胸元のボタンを外し、肌を露わにすると彼女の身体がびくりと震えた。
「ああ、こちらにも汗をかいていますね」
 胸の谷間を勿体ぶるように指で撫で回し、汗の粒をすくい上げる。恥じらう彼女の目の前で汗で濡れた指をぺろりと舐め上げた。
「や、やめてください。そんなの汚いです……」 
「いいえ、綺麗ですよ」
 背中に回した手でブラのホックを外し、下着を剥ぎ取った。形の良い胸がぷるんと弾み、誘うように蕾が勃ち上がっている。指の腹で頂きを軽く弾くと、稲穂の腰が小刻みに震える。随分と我慢しているのだろうと思いながら、勃ち上がった蕾をきゅっと摘みあげた。
「ひっ……あっ……」
「もう、こんなに乳首が勃起していますよ」
 わざと卑猥な言葉を投げかけ、彼女の官能を揺さぶる。感じていない、と稲穂は必死に抵抗し首をゆるゆると振った。
 だけど頂きを摘み上げ、こねくり回すと太腿がだらしなく開いていく。
「もしかして、濡れてなどいませんよね?」
「ぜ、絶対にありません」
「では、確かめてみましょう」
 ふわりと広がる軽やかなスカートを捲り上げ、外側の腿を手のひら全体を使って撫でる。反射的に腿を閉じようとするが、媚薬効果で力が入らないようだった。
 その隙を狙い、するりと脚の間に手を潜り込ませる。柔らかい内腿を押し広げ、薄い下着をなぞると粘りを含んだ音が聞こえてきた。
「稲穂様、これはなんですか」
 二度、三度と、稲穂に聞かせるように秘裂を撫で上げて水音を響かせる。稲穂の顔が熱をもって赤らみ、今にも泣き出しそうな表情を作る。だけどそんなことでやめるわけもなく彼女を追い立てようと、尖り始めた肉芽を軽く弾いてやった。
「ひゃっんぅ……」
 だらしなく広がった腿がわななき、下着にさきほどよりも多くの蜜が染み出す。
「こんなに濡らしていけない人ですね」
「ち、違う、私は……」
 この後に及んでまだ快楽を否定しようとする稲穂に追い打ちをかけては薄い布越しに肉芽を小刻みに揺らし立て、快感をひきずり起こす。
「んっ……あっ……はぁ……」
 肢体がなまめかしくくねり、頑なな身体が花開くように紐解かれていく。すっかりぐしょ濡れになった下着を剥いでしまい、腿を大きく広げた。
「冷たいでしょう。お尻まで濡れてしまっては」
「そ、そんなに濡れていません」
「そうですか? ここはこんなに赤く熟れていて、次々に愛液が滲みでていますよ」
 興奮で赤くなった陰唇をじっくりと見つめ指で軽く掻き回すと、それだけで粘着質を含んだ蜜が指にいやらしくまとわりついた。
「ほら、こちらが今ひくつきましたよ」
 包皮を捲り上げ、頭を覗かせている肉芽を指で挟んで押し潰すようにきゅうっと摘んだ。
「あああっ……ああっ……ん」
 すると、全身を震わせて小刻みに何度も痙攣を繰り返す。
「ああ、いけませんね。稲穂様、他の男にこんないやらしいことをされてイッてしまわれるとは」
「ち、違い……ま……」
 否定の言葉を口にしようとしたから、今度は肉芽を指で挟んだまま左右に震わせる。
「ひっ……あっ……だ、だめぇ……」
「どうして駄目なのですか」
「び、敏感になっ……ていて……今、駄目……」
「敏感? それはイッたからでしょう。だけど、まだ貪欲に快楽を求めている。ほら、こんなに赤く膨らませて」
 包皮を剥いてむき出しになっている肉芽をこりこりと指で弄び、執拗に何度も揺さぶった。そのたびに、稲穂はびくん、びくんと身体を震わせて腰を浮かせる。
「や、だめ……っ」
「おや。またイッてしまいますか? いいんですか。私のような者にいかされてしまって」
 緩やかに肉芽をこね回す動きを徐々に速めていき、彼女の欲情を掻きたてた。これとないほど肉芽が大きく膨らみ、指でぐちゅぐちゅに弄ってやると彼女のつま先がぴーんと伸びる。
「だ……めぇ……ああっ」
 腰を何度も揺らし、激しく髪を乱しながら稲穂は二度目の快楽に達した。







 


241

ぽちっと押して応援して下されば、励みになりますm(__)m
↓ ↓ ↓



next/  back

inserted by FC2 system