河畔に咲く鮮花  

第四章 四十三輪の花 3:鬼ごっこ2

 ***

 蘭は少々の体力には自信があったが、今日は天候が悪く、雨がざあざあと殴りつけてくるように降っている。
 土はぬかるみ、服も水分を吸って、どんどんと重くなっていく始末。
 さすがの蘭も走るたびに足は重くなるし、一歩進むごとに体が鉛のように動かなくなってくる。
 雨のせいで体は急激に冷え込み、体力がどっと落ちた。
――駄目だわ……体力が落ちている
 鬱蒼と生える森林の間を駆け抜けている為、少しは雨を防げてはいるが、方向も土地勘もない蘭にとっては不利な状態だ。
 暗くて前方も不確かな今は、精神的にも大きな不可がかかる。
 蘭は息を整える為に、木立に背を預けては、降り注ぐ雨を振り仰いだ。
「このまま見つからなければいいのに……」
 冷たい雨を浴びながら発した声は、この叩きつける滝のようなどしゃぶりの音の中に消えゆく。
 息を整えて静かにしていると、長虎の熱い視線がふと脳裏に思い浮かんだ。
 このまま逃げられても、長虎だけにはどうしてかお礼が言いたかった。
 最初は最悪な出会いだったが、自分の父を思う気持ちは本物で、その時ばかりは優しさを滲ませていた。
 嫌味で皮肉屋だったが、下虜の蘭に絆創膏を貼ってくれたり、静音から助けてもくれた。
 軟禁したのも蘭を思ってのことで、その分かりづらい優しさに驚きもした。
そう思うと長虎は女性に慣れているようで、実は不器用なのかもしれない。
 長虎の冷たい顔や、微笑んだ顔、労わる顔、情熱を宿した顔、悲しそうな顔、切なげな顔、様々な表情がくるくると万華鏡のように思い出され、胸を締めつける。
「ありがとう……長虎様……」
 本当ならば目の前でそう伝えたかったが、このまま会えずに終わるかもしれない。
 そっと囁いた呟きは雨の中に掻き消された。
 静かに物思いに耽っていると、ざざっと雨を散らす音が蘭の耳に届いてくる。
 木立に身を隠したが、その姿を見たときに慄然とする。
 雨の中、幽鬼の如く佇んでいたのは、一番見つかりたくない静音だった。
――ようやく、見つけたぞ
 雨の中、僅かに動いたその口元を読み取ると、ぞっと背筋が寒くなり、周りの温度を下げていく。 
 ざあざあという強い雨脚が絶望を告げているようで、蘭はよろりと体勢を崩した。
 どちらの動きが早かったのか――静音が雨を散らして突進してくると蘭は瞬時に身を翻して、走り始める。
 足がぬかるみ、もつれ、つまずきそうになるが、それでも蘭は必死でこの雨の中を逃げた。
 だが優男といっても静音は男であり、追いつかれるのも時間の問題である。
 すぐ真後ろに迫ってきた静音にがつっと肩を掴まれた瞬間、心臓が大きく飛び上がった。
「下虜! 捕まえたぞっ!」
 無理やり振り向かされたけど、静音の後ろからアキが走ってくる。
気がついた時には体ごと突進され、静音と一緒に蘭はぬかるんだ土の上に倒れていた。
「くっ……このやろっ……!」
 静音はまだ怪我の治っていない頭に手を当て、ぜぇぜぇと荒い息を吐き出し、恨みがましい目をアキに向けた。
「蘭っ、こっちだよ!」
 アキがすぐに立ち上がると、蘭の腕を強く掴んで引っ張り上げた。
そのままアキに引きずるように走らされ、岩の下に身を隠す。
「ここなら少しは雨宿りできるでしょ」
 岩の下の狭い空間でアキと蘭は座り込み、森の中の様子を窺った。
 息を整えるが、まだ静音の恐ろしい形相が脳に焼きつき、体が自然に震える。
「蘭、大丈夫?」
 アキが心配そうにかけてくれた声で、ようやく現実に引き戻された。
「あ、ありがとう。アキちゃん。助かったよ」
 振り返ると、アキが顔の水滴を拭ってにこりと微笑む。
 だが、その虚飾で彩られた偽りの笑みは、どこか違和感を感じさせた。  
「だって、蘭はボクのモノにするんだもん」
 アキの大きな瞳からは光が失われ、うっすらと笑う口元は雨に濡れてなまめかしく動く。
 体が固まり、動けない蘭の肩にゆっくりとアキの手が乗り、いやらしく撫で回した。
「アキちゃん……?」
 震える声でようやくそれだけが絞り出せたが、アキはぐっと身体を擦り寄せて雨に濡れて張りついた蘭の胸を触り始める。
「蘭、寒いでしょ? ボクが温めてあげるよ」
 アキの喉仏がごくりと上下に蠢き、はぁと荒い息を吐き出す。考えたくもないが、まさかここで行為に及ぼうというのだろうか。
 そう思うと蘭は恐ろしくなって、地べたに腰をつけたまま後退した。
「どうして逃げるの、蘭? この間はずっと朝までボク達、愛しあったじゃん」
 愛しあった覚えもないのに、アキはじりじりと間を詰めて蘭に迫ってくる。
アキの何も見えていない瞳に蘭はうすら寒さを感じた。
「ねぇ、いいでしょ。蘭っ!」
 アキが飛びかかってくると蘭はその場で押し倒され、四肢を封じ込められる。
 華奢ではあるが、アキも一応は男の子である。
 蘭のか細い腕ではアキを振り払うことが出来ずに、ただ無様に暴れるしか出来なかった。
 アキの履いているスカート越しはすでに盛り上がり、雄の昂ぶりを示している。
ぐっと腹に押しつけられて、蘭はわなわなと唇を震わせた。
「ほらっ、もうボクの勃起肉棒が入りたがってるよ。いっぱい、いっぱい射精したいってさ」
 まるで人ごとのように話し、ぐいぐいと熱い塊を下肢に埋め込んでくる。
「アキちゃん、お願いだから、許してっ」
 涙目で訴えてもアキは分からないと言ったように首を大きく傾げるだけだ。
「どうして? すっごい気持ち良かったじゃん。蘭の中も喜んでたくさんボクのミルクを飲んでたよ」
 それはアキの勝手な解釈で、縛りつけた蘭の中に好き放題、射精しただけだ。
それを同意だと思い込んでいるらしく、アキは不思議な顔をする。
「ボクの屋敷に行こう? そうしたら毎日、毎夜、肉棒ミルクを飲ませてあげるよ。欲しいんだよね、蘭は」
――僕が飼ってあげる
 アキの心の声が聞こえてきて、蘭はぶるりと背筋を震わせる。
――そんなことを望んでいない
 違うと声を出そうにも、体が強ばってまともに声が出なかった。
 アキが蘭の手を上で縛りつけ、片方では自分の下着を剥ぎ取っているようだ。
 前戯なしですぐにでも挿入する気と分かり、蘭はがくがくと腿を震わせた。
「蘭が欲しがるから、たくさん注いであげるね」
――止めて、アキちゃん!
 欲しがってなどいないと言っても、今のアキではまともに判断することすら難しいだろう。
アキがにこりと綺麗な微笑を湛えるが、それが逆に一層闇を深めたように思えた。
「――ね、いいでしょう」
 アキがのしかかり、手をゆっくりと伸ばしてくる。
「止めるんだ、アキっ!」
 だがその闇を切り裂く強い声に、アキはハッと身を上げて、雨の中に佇む人物を見つめた。
「長虎……っ」 
 アキが瞳に驚きと焦燥を宿らせ、そのまま動きが止まった。
「蘭は僕が連れて行く」
 長虎が腰を屈め、岩の下に入ってくると蘭の上からそっとアキをどかした。
 どっと地面に腰を降ろして、アキは緩慢な動きで長虎を見上げる。
「さぁ、行こう。蘭」
 アキが見守る中、長虎から差し出された手を取り、蘭は岩の下から身を出した。
 手をしっかりと握られたまま、蘭は一瞬だけ後ろを振り返る。
 光が戻ったアキの瞳はこの雨と同じように揺れていた。
「もう、時間が終わる。僕が蘭を守り抜くよ」
 長虎がはっきりと口に出し、大股で歩き始める。
 つられて蘭も急ぎ足で長虎の後について行った。
「もう少しで小さな洞窟があるんだ。そこで身を隠そう」
 長虎は別荘で過ごしている為に、この辺りの地理には詳しいのだろう。
 迷いもない足取りで力強く蘭の手を繋いだまま引っ張って行く。冷たく濡れた長虎の指
先は微かに震え、寒そうであった。
 雨の中をずっと探してくれていたのだと感じ、蘭はぎゅっと応えるように長虎の手を
握り締める。
 その力強さに驚いたのか長虎は後ろを振り向き、蘭をじっと見下ろした。
 数秒――沈黙が続き、雨のざあざあという音だけが二人の間を走り抜ける。
 今言うべきことではないかも知れないが、蘭は心に積もっていた思いの丈を静かに紡いだ。
「あの、長虎様に会えたら言おうと思っていたんです……私を助けてくれてありがとうございますって」
 振り仰ぐ長虎の美しい艶を含んだ髪の毛先からは、雨の滴がぽたぽたと落ちて首筋を伝っていった。
 しっとりと張りついた髪が、長虎の美しさを際立たせ、それがこの雨の中なんとも言えぬ色香を帯びていた。
「どうして――今?」
 雨に濡れた唇がなまめかしく蠢き、長虎がそれだけをぽつりと囁く。
 揺れる瞳に蘭の顔が映り込み、いつの間にか激しい雨の音も耳から遠ざかっていった。
「もし逃げ切れたら、長虎様に会えないから――だから、こうして一緒にいれる時に言っておこうと思いました」
 そう告げると長虎の形のいい眉はしかめられ、蘭はあっという間に逞しい胸の中に抱きとめられた。
 優しいけど――力強い長虎の腕に掻き抱かれ、蘭は恐る恐る顔を見上げる。
「逃げたいのかい、蘭? 僕の腕を擦り抜け、自由になりたいの?」
 自由という言葉をちらつかせつつも、長虎の蘭を抱く腕は一切緩むことはない。
 その矛盾さに戸惑いを滲ませ、蘭は長虎の様子を窺った。
 長虎の水滴の乗った繊細な睫毛が震えると同時に、蘭の唇は優しく塞がれる。
 唇に溜まっていた雨粒がすくわれ、熱い滴りと一緒に蘭の口元へ運ばれた。
 冷たく温度の下がった唇とは裏腹に、長虎の瞳には熱情がはっきりと刻まれ、蘭にはそれが一層切なく感じられた。
 口付ける間、長虎の前髪から滴る雨粒が蘭の頬を流れていき、その間だけは雨音も聞こえなかった。
 跳ね除けることも出来たが、雨に混じり唇に滑り落ちてくる塩辛い味が切なくて、悲しくて――。
 長虎が泣いている――信じられないが、そのしょっぱい味は舌に流れては悲しげに溶けていく。
――本当に、不器用な人
 ふと瞳を開けて長虎を振り仰ぐと、真珠のように美しい滴が瞳から次から次へと溢れて、雨と一緒に頬に流れ落ちていた。
「長虎様――泣かないでください」
 唇を放して指の背でそっと涙に濡れた頬を撫でる。
「泣いて……いる? 僕が……」
 蘭に言われてようやく気がついたのか、長虎は指先で目尻を拭った。
「信じられないな……この僕が……泣くなんて……君がこの手から逃げてしまうと思うと、苦しくなって。なんだか心臓がぎゅっと絞られて辛くなったんだよ。これってどういうことなんだろう」
 自分の気持ちに戸惑っているようで、本当に泣いている意味すらも分かっていないようだ。
蘭はふっと笑うと、大きな子供を見る眼差しで長虎を見上げる。
「それって、愛の告白しているようなものですよ、長虎様」
 冗談げに蘭は言うが、言われた本人は目を大きく見開いて驚いていた。
呆気に取られていた長虎はみるみる顔を赤らめ、視線をあちこちに彷徨わせる。
「愛……この気持ちが好きってことかい? 今まで多くの女性を相手して愛の言葉を囁いていたけど……全然違う……」
 困惑している長虎を見て、今度は蘭が呆気に取られる番であった。
「今までどんな恋愛をしてきたんですか」
「好き……愛している……そう囁くと誰もが応えてくれた。でも離れていっても執着することはなかったし、こんなに苦しい気持ちにはならなかったよ」
 長虎が参った風に肩を落とす姿はどことなく可愛く見える。
「本当にそれって好きだったんですか?」
 呆れ気味の蘭の顔をじっと覗き込み、長虎は形のいい唇を動かす。
「よく分からない……そう言うと誰もが頷いてくれたから……僕にとっては挨拶みたいなものだったし。女性を良い気分にさせるのは紳士の役目だろう?」
 長虎の答えを聞いて蘭ははぁと大きく溜息を吐き出した。
長虎はきっとまだ本当の好きという気持ちを知らない。
ただ綺麗な人や気に入る人を見つけては、挨拶がてらに愛していると囁く。
 それで上辺だけの付き合いをしては、何一つ相手に執着もしない。
 親衛隊に向けていた虚飾に彩られた笑みを思い出すと、それはそれで少し可哀想な気もした。
「好きってこんな気持ちなのかい? もっと楽しくて嬉しいものじゃないのかな。どうしてか君といると、自分じゃ自分でなくなる。苦しくて辛くて、心臓をわし掴みされるほど痛いんだよ」
 切羽詰った長虎の瞳からまた大粒の涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「蘭、苦しいよ。僕を助けてくれないか。ずっと、ずっとこの腕の中にいて……傍で笑って。こんなに激しい気持ちは初めてなんだ。これが……恋情ってもの?……」
長虎は雨の中で百面相をしながら、まだ自分の気持ちに整理がつかないようであった。
冷静さを崩す長虎が珍しくて、蘭は呆けたままつい見てしまう。
 まだ一人でぶつぶつと喋っている長虎を見上げていたのも束の間、じゃり――と土を力強く踏む音が届いてきた。
 瞬時に長虎が警戒して後ろを振り返り、体を固まらせる。
肩ごしに見えるその人物を見て、蘭も驚愕の色を瞳に浮かべた。
 どしゃぶりの雨を跳ね除け、悠然とその場に立つ存在感は圧倒的で、強い眼光は肉食の獣を連想させる。
「よぉ、なにを驚いているんだ。俺が参加しないとでも一言でも言ったか、長虎」
 その不敵な物言いやゲームに勝つ自信の表れは、すでに勝者を確信した物言い。
 片側から覗く鋭い眼差しは獰猛な鷹のようで、蘭は自分が捕食される獲物だと――そう思った。
「健吾……っ……まさか、君が来るとはね」
 長虎が健吾を見据え、この雨の中で濃い陰影を顔に落とす。
「さぁ、始めようか」
 健吾がぽきり、ぽきりと拳を組んで太い指を鳴らし、口元に流れる雨の粒をべろりとすくい舐めとった。
 長虎が蘭を庇うように立つと、囁くように呟く。
「……蘭、逃げるんだ」
 その一言に、蘭は目を大きく見開き庇うように立つ長虎を見上げた。
「刀をもたせたら僕の勝ちだろうが、素手では健吾の方が上だ。ここから東に行くと外へ出れる。逃げ切って、里へ戻れ」
「でもっ、そうすると長虎様がっ――」
「いいからっ、逃げ切れ! 健吾の手に落ちるなら、僕の手を離れる方がよっぽどいい。この胸は張り裂けそうだけどね」
 僅かに振り向いた顔には焦燥感が滲み、それと同様に悲しげに雨粒が流れ落ちて行く。
――それがまるで、苦しみを全て洗い流す涙のように見えて、胸は締めあげられた。
「さぁ、行くんだっ! 大した時間稼ぎにはならないかもしれないけどね」
 長虎が自分を鼓舞するように叫ぶと、健吾に立ち向かっていった。
 長虎が剣術に長けているように、健吾は素手で戦うことに慣れているのだろう。
 その無駄のない体躯は獣のように強く、しなやかな動きで長虎を叩きのめす。
 殴られた長虎がスローモーションのように、雨の中、吹っ飛ばされた。
「そんなんものか、長虎? 女を守りたい気持ちはそれ程度か」
「……舐めてもらっちゃ困るね……健吾」
 長虎はのろりと起き上がり、血の滲む口元を袖で拭う。
「絶対に渡しはしないっ!」
 圧倒的な力を前にして諦めない長虎は健吾に向かっていく。
「ははっ、もっと来い! 長虎っ」
 健吾は楽しげに笑うと、長虎の腹に拳を埋める。
「ぐっ……がはっ……」
長虎が腰を折り、その場に膝をついた。
「長虎様っ!」
「……蘭……逃げるんだ……早く……」
 駆け寄ってこようとする蘭を手で制して、長虎はまた立ち上がる。
「くくくっ、いいな。本気見せろよ」
 健吾は一切力を抜くことなく、立ち向かってくる長虎を叩きのめした。
 長虎はそれでも諦めずに、健吾に何度も蹴られたり、殴られたりを繰り返す。
敵わないのに向かっていく愚かでもある長虎の勇姿を見て、蘭は自分一人で逃げることは出来なかった。
 ――お願い、もう止めて。立ち向かわないで 
 蘭の気持ちは届かず、容赦ない健吾の打撃は続いた。
「長虎様っ!」
 蘭は叫びを上げて長虎を呼ぶが、愚かにも健吾に立ち向かっていく。
「ほらよっ! もう、諦めろっ、長虎」
 健吾の拳が振り下ろされ、雨の中に長虎の吐き出した血も一緒に散っていく。
 殺す気でいるのではないかと思い、蘭は健吾に対して強い怒りを感じた。
 人魚の里だけではなく、この男は勝手な暴力で全てを破壊していく。
 このような男に好き勝手させてはいけない――長虎をこのまま放っておくことは出来ない。
 強烈な思いが突き上げて、蘭はとうとう体を動かしてしまった。
――ばしゃんっと水たまりを蹴って、土に体を沈ませる長虎に駆け寄っていく。
――長虎様、生きているの?
 泥や血が長虎の顔を覆い、無残なほど傷ついた姿は心を痛める。
「――つっ」
 蘭が触れると長虎は傷を庇い、小さく呻きをあげた
――長虎様……こんなになるまで
 横たわったまま苦しげに息を漏らす長虎の体を庇って、蘭は獰猛な健吾を見上げた。
「もう止めてっ! もういいでしょ! あなたが勝者よ、私を好きにしなさいよ!」 
 強い眼差しで射てくる健吾にも怯まず、蘭は冷たくなった長虎の体を覆った。
「だからそんな目で見るな。イッチまうだろうが」
健吾は軽い調子で言うと、蘭の腕を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「――十二時だ。俺の勝ちだな」
 健吾はわざとらしく時計に視線を落として、にやりと不敵に笑った。
 どしゃぶりの雨の中、ただざあざあという音だけがやたら耳障りで、蘭の心は絶望へと変わっていった。






 





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