河畔に咲く鮮花  

第四章 四十二輪の花 2::終わらない夜《前半》


 ***


 意識を取り戻したのは夜も更けた頃であった。
 もう、夜中なのだろうか、辺りはシンと静まり返り、秋の虫がりいんと情緒深く鳴いている。
 それが悲哀を帯びるように聞こえてきて、蘭はのろりと上体を起こす。
 枕元にはお膳が置いてあり、長虎の手紙が一緒に置かれてあった。
 眠りから覚めたら食べなさい、と一筆だけ書かれたものである。
 いつまで寝ていたのか分からないが、すっかり御飯は冷え切っていた。
 だがその心遣いが蘭にとっては有難かった。
 この気だるさはきっとフラッシュバックが起きたせいだろう。
 何度か経験しているせいで、記憶の断片を見たことをしる。
 だが、今回はどうしてかその記憶の一部をしっかりと覚えていた。
 桜が舞い散る美しい庭園で、蘭は上等な着物を着て、誰かに寄り添っていた。
――あの情景は一体どこのもの?
 養女時代に過ごしていた貴族の頃の記憶かと思ったが、公人の姿は見えなかった。
 それに顔の見えない男性に蘭は思慕を抱いていたようだ。
――あの人は誰だったのだろう
 もしかして、志紀より前に愛していた人がいたのかもしれない。
 志紀を愛する穏やかな気持ちとは違って、記憶の中の蘭は激しいほどの胸の高まりを感じていた。   
 自分の中にあれほど昂る気持ちがあることを知って、驚きが隠せない。
 激情的に荒れ狂うほど、彼を愛していた反面、胸を突く切ない痛みも同時に湧き上がった。
 たくさん傷つき、たくさん泣いて、それ以上に彼を愛して――
 そんな様々な気持ちが、あの記憶の中には詰まっていた。
 現在、隣にはいないということは、その狂おしいほど愛した彼とは別れたのかもしれない。
 もしかしてそれが辛すぎて記憶を失ったのかもと蘭は新たなる発見をして、そっと吐息を吐き出した。
公人も本当はそれを知った上で、蘭には何も言わないのかもしれない。
 記憶で落ち込んでばかりじゃいられないと、蘭はご飯を食べることにした。
 長虎が珍しく気を遣い、蘭に用意してくれた遅い夕食。
 これを食べないとまた嫌味が飛んできそうな気がして、お膳に目を落としたところ、もう一つ手紙があることに気がつく。
――手紙?
 二つ折りされた手紙を開くと、今は使用していない納屋で話があると長虎から書かれていた。
――そんなところでどんな用事が?
 蘭は首を傾げるが、誰にも聞かれたくない話があるのだと思い、納屋へ向かった。
 納屋は暗く閉ざされてあり、屋敷からも離れている為、あまりにも静かすぎて不気味な雰囲気を醸し出している。
 蘭は恐る恐る納屋のかんぬきに手をかけ、そろそろと中を伺った。
なぜかおびただしいほどの蝋燭が灯されている。
 開けた扉からの風でふわっと炎が一斉に揺らめいては、恐怖心を煽る。
 奥から微かに声がして、蘭は蝋燭の炎をたよりに薄闇の中を怖々と歩いた。
「長虎様……?」
 納屋は使用されていない縄や電化製品、長虎が親衛隊から貰った贈り物も積み上げられている。
 蘭が奥まで入ると、そこにはアキが柱に縛り付けられたまま突っ立っていた。
「アキちゃん!」
 両手首は後ろに回され、縄で何重も縛り付けられ、両足もがちりと縄で固定されている。
 口には布を詰め込まれて、アキは首を横に降り、縄から逃れようとしていた。
「どうしたの、なんでこんなことに!」
 蘭がすぐにアキの口から布を取り出して、顔を覗き込む。
「――蘭っ、後ろっ!」
 アキが顔をあげて蘭の後方を見やった瞬間、ざあっと何本もの蝋燭の炎が一斉に揺らめいた。
すぐさま振り向くと、ばちんと頬に痛みが走り、あまりの強打に蘭はその場に身体を崩した。
「蘭っ! 大丈夫?」
 アキが身を乗り出して、座り込んだままの蘭の様子を伺う。
 蘭がうっすらと目を開けた瞬間に、また頬をばちんと強く殴られた。
――なに、なにが起こったの?
 急な痛みに驚いて、蘭は座り込んだまま頬に手を当てた。
「あんたっ! ボクでも女には手を挙げないよ! 最低だよ」
 アキが可愛い顔に怒気を刻み、薄闇の中で立つ男を睨み据えた。
――あっ……この人は……
 その男を見て蘭はぞっと背筋が凍りつく。そこには静音が立っていて、口元を片側に吊り上げていた。
 匂い立つ美貌が醜悪に歪み、その綺麗な瞳には狂気を宿らせている。昼間と雰囲気ががらりと変わっていて、蘭は恐ろしさのあまりに声が出なかった。
「よくも私達に恥をかかせたな。お前が、倒れたせいで生花会はお開きになったじゃないかっ」
 静音が忌々しく唇を歪めて、怒気を丸出しにする。
「よく言うよ、花に細工して切れないようにしていたくせに」
 アキが吐くように言うと、静音の怒りの矛先が変わる。
「ふんっ、それぐらいどうってことないだろ? こんな下賤な下虜はただの引き立て役にしかならない。なのに、あんな臭い演技をして、猿女がっ、気を引きやがって」
 静音の暴言に驚き、蘭は目を大きく見開く。
 大人しく静かな出で立ちはただの演技であったことに気がついた。
――この人……やっぱり……危ない
 本性を知るが、アキをこのままにして逃げるわけにもいかない。
「低脳な猿女を痛めつけなきゃな。あんな、簡単な手紙に引っかかって。本当に馬鹿だよっ! 長虎様がお前に用事があるとでも思っていたのか!」
 静音は荒々しい感情を剥き出しにして、蘭の頬をまた強くばしりと殴りつけた。顔をあげるとまた静音の平手が飛んできて、蘭は痛さで涙が滲んでくる。
「止めろって言っているじゃない! ボクがお前のしたことを長虎に言おうと思っていたんだ! だから蘭は関係ないだろ」
「勝手にそんな行動されちゃ、困るからお前もここに縛りつけたんだ。たっぷりとお前ら二人には罰を受けてもらわないとな」
 静音はハッと鼻で笑い、蘭の両腕を強引に背中に持って行くと、縄でぐるぐると縛り始めた。
「ふんっ、猿女にはそういう格好がお似合いだ」
 後ろで両腕を縛られて蘭は身動きがとれなくなる。
 状態を静音に力任せに起こされて、アキの足元に放り投げられた。
「あうっ……!」
 蘭の背にアキの太ももが当たり、ジンと痛みが走っていく。
 乱れた呼吸で静音を見上げると、にやりと下卑た笑いを浮かべていた。
 ぺろりと赤い舌で唇を舐めて、静音は下半身を蘭の前に晒した。
 あっと目を剥いて体を固まらせるが、その様子を楽しそうに見て静音は蘭の目の前で立ち止まる。
 すでに膨張していきり勃った肉棒を手に持つと、顔を背けた蘭の頬をぺちぺちとそれで叩いた。
「さぁ、咥えろっ。下虜なんだろ? 体を売ってこの屋敷に囲われているんだろ? 獣のようにしゃぶって、気持ちよくさせろ」
 そんなことが出来るわけないと蘭は必死で顔を背けて、歯を食いしばる。
「猿のくせに逆らうなっ! こっちを向けっ」
 静音に髪をわしりと掴まれて、あまりの痛さに口を開いた瞬間、熱い肉棒が埋め込まれた。
「ンっ……ぐっ……」
 いきなり喉の奥まで突っ込まれて、蘭は苦しくて嗚咽を漏らすが静音はそんなことも気にしない。
髪をわし掴みにしたまま、嬉しそうに腰を前後に揺さぶった。
「歯をたてるなよ……立てたら、お前じゃなくこいつの口に突っ込むからな……ンっ……」
 静音がちらりと視線を送ったのは縛られて突っ立ったままのアキである。
まだ若いアキにそんなことはさせられないと、蘭は静音の言うとおりにすることにした。
「……そうそう……もっと舌を使え……もっと咥え込んで……ははっ……いいぞっ……」
 静音は相変わらず蘭の髪の毛を掴みながら、そう命令してきて腰を激しく揺さぶった。
 苦しくて吐きそうだったが、そんなことをすれば、アキが危ない。
 蘭は嗚咽を繰り返しながら、この屈辱が一刻も早く終わることを願った。
「お前の口の中は熱くて……柔らかいな……ンっ……はっ……この屋敷に来てご無沙汰だったから……すぐにイキそうだ……」
 静音が恍惚の息を漏らして、蘭の口で何度も深い抜き差しを繰り返す。容赦なく奥まで埋められて、喉が詰まりそうになり、まなじりからは涙が滲んできた。
「この屋敷にいる以上、これからは……お前は私の処理係だ……いいなっ……ンっ……ああっ……いいぞっ……」
 ぬらりと艶を帯びた肉塊は、先ほどより怒張して、蘭の口の中にみっちりと埋まった。
「ああっ……くっ……もう……出すぞっ……しっかり、飲むんだ……私の高貴な種をっ……はあっ……ああっ……イクっ……」
 静音の腰の揺さぶりが早くなり、奥に深く埋められた瞬間、どばっと熱く苦い液が口腔内に吐き出された。
 静音は余韻に浸り、腰をぴくぴくと小刻みに震わせ、最後の一滴まで蘭の口の中に放出する。
 無理やり口を犯された不快感と失望がないまぜになり、蘭は呆然としてしまう。
 溢れ出た白濁の液がとろりと唇の端から悲しくこぼれ落ちていった。







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