河畔に咲く鮮花  

第四章 四十一輪の花 7:長虎の婚約者

***

「あなたが、蘭さん? 私は長虎様の婚約者で、黒田咲子と申します。こちらは弟の静音」
 その日は長虎の屋敷に婚約者の一行が来訪してきた。
一週間ほど滞在をするようで、蘭には関係のないことだと思っていたが、咲子とは一日目で顔を合わすことになる。
 それも長虎の父の部屋であり、蘭はわざわざこの場に呼ばれたのだった。
――なんて綺麗な人
 驚くほどに品位があり、清楚な美しさを持つ美人を目の前にして蘭は少し怯んでしまう。
弟の静音も大人しく静かだが、咲子と同じ美貌を持ち、気品に溢れていた。
「蘭、咲姫がお菓子を持って来てくれた。みんなで食べるがいい」
 長虎の父はわざわざお菓子を蘭に与える為だけに、部屋に呼んだようだが、咲子からすれば奇妙な女だと思うだろう。 
 格が違う美人にじろじろと眺められては、蘭は恐縮するばかりだ。
しかも咲子に会うことすら知らずにいたので、格好もいつもと同じでつなぎの作業着だ。
――もう少しまともな格好で来たらよかった
お菓子をいただいて、さっさと退却しようとした時に、咲子はぐるりと部屋を見回した。
「……この部屋の観葉植物はどちらにいったのかしら」
 今はもう部屋の中に観葉植物は置いていない。
長虎の父を囲むように置かれては健康に悪いだろうと、庭や、その他の部屋に分散させたのだ。
「それは私が取り除いて、他のところに置かせていただきました」
 蘭が悪びれもなくそう言うと、咲子は少しだけ細い眉をしかめて、視線を戻してくる。
「そうなの……ではまたご用意させましょう。あれは、私が送って差し上げたものですから」
 さらっと言う咲子に蘭はえっと目を丸くして、自分がしてしまったことに冷や汗を流す。
――私……やばいことしちゃったかも……
長虎の父の部屋の観葉植物は、全て咲子が用意したものだと知る。
きっと長虎の父のことを思ってしたことに違いないが、蘭に撤去されてしまい、心中はやきもきとしているはずだ。
「あ、あの……私、知らなくて――」
「では、もう退室してくださいますか? 私はもう少しお話をしたいので」
 蘭の言葉を聞きたくないのか、咲子は強い口調で遮ってきて、その迫力に負けてしまう。
――こ、怖い
美人に凄まれると怖いものだと蘭は感じて、すごすごとその場を退出した。
 咲子達が連れている侍女達が部屋に荷物を運び込む姿を見ながら、蘭は昨日の続きで紅葉の履き掃除をしようと庭に下りた。
 ほうきで散り落ちた紅い葉を履き、一箇所に集める。
つい夢中になって掃除をしていると、後ろから急に抱きつかれた。
「ちょっ、誰ですか」
蘭が慌てて振り向くとぱっと手は離され、長虎がくすくすと意地の悪い笑みを浮かべる。
「庭の掃除など、庭師に任せればいいのに。君はじっと出来ない性分なのだね。ああ野猿だから、少しでも自然の中で動きたいのかな」
――どうしてこの人はこう言うのかしら
 長虎の嫌味な物言いが始まったと分かるが、蘭はいちいち相手にするのも馬鹿らしく、ほうきを掃き出す。
だが長虎は木立に背を預けて、じっと蘭の掃き姿を眺めていた。
「御用がないなら、あっちにいって下さい。気が散ります」
 蘭は手をぴたりと止め、紅い葉の下で静かに佇む長虎に視線を向ける。
情景に溶け合うほどの長虎の美しさは、完成された一枚の絵のよう。
 その隣に立ち並ぶ咲子を思い浮かべると、芸術的な精巧さが増す。
それほどお似合いな美男美女はいないであろう。
「何をそんなにじっと見つめているのかな。野猿に美という観念が分かるのかい」
 少しだけ微笑む長虎はどこか哀愁を瞳に浮かべ、ゆっくりと木立から背を離した。
ようやくこの場から立ち去ってくれると思ったが、ふいに目の前で立つとぐっと腰に腕を回されて、引き寄せられる。
「こっちにも記をつけるの忘れていたよ」
 つなぎのファスナーを長虎の指が遊ぶように、ゆっくりと下に下ろしていき、白い胸元を晒される。
「ちょ、ちょっと待ってください。ファスナーを下ろさないで下さい」
 慌てて腹まで下ろされたファスナーを持ち上げようとするが、すぐに長虎に手首を掴まれて制される。
「駄目だよ、ペットはご主人様の言うことを聞かなきゃね」
 綺麗な瞳が降ってきて、すぐに顔は蘭の胸元に埋められた。
 胸はさらりとした長虎の髪にくすぐられる。
「ペットになったつもりはありませんっ」
 蘭はみじろぐが、長虎は気にもせずに、張り出した胸の上に唇を落とすと、またちゅうっと強く吸い付く。
「つっ……」
 蘭が顔をしかめるが、長虎の唇は移動しながら、様々なところに赤い花を散らせた。
「健吾から預かったのは僕だよ。その瞬間から、主従関係は決まっていたんだ。分かるかな……ンっ……」
 熱い息を吐き出して、長虎はまた白い胸に赤い花を咲かせた。
「もう、いい加減にしてくださいっ。咲姫がいらっしゃるでしょう。こ、こういうことはそちらにしてください」
 ようやく長虎から腕を離されて、蘭は後ずさりファスナーをあげる。だが長虎は当初会った時のような冷たい表情に戻り、氷の美貌を顔に張り付かせていた。
「……どうしたんですか?」
――なんだか怖い
 せっかく、このところ長虎が柔らかい表情を見せてくれるようになったのに、張り詰めた空気を肌で感じ取って、たじろぐ。
「……婚約者、ね。ただの政略結婚だよ」
 ぽつりと呟いた長虎は冷たい眼差しの奥に、淋しげな色を滲ませる。
「で、でも、綺麗な方だし。気品溢れて私なんか、到底そこには及べないというか。美男美女で、お似合いだと思いますけど」
 必死で弁明すると長虎はハッと鼻で笑い、綺麗な瞳を細めた。
「咲子は綺麗で清楚。純白な百合のように気高く高貴。その点、君は粗野で野蛮。裸足で庭をうろつく、野猿で、自分の立場もわきまえない野生といったところか」
「あの〜、最後の方はほとんど悪口になっていますけど」
 咲子と比べられてもその差は歴然としている。
百合のように香り立つ気品溢れる美人と、作業着でうろつく蘭とでは雲泥の差。
 そのようなわかりきったことを今更言われても何も返すことが出来ない。
「……でも、君もいいところはあるよ」
 長虎の美しい瞳がすいっと流れてきて、蘭はきょとんと目を丸くしてしまった。
薄く微笑んでは、長虎は焦らすような足取りで一歩、一歩と蘭に近寄ってくる。
「たとえば――僕にお仕置きされて、可愛く啼くところとか」
 色っぽく目が細められると同時に、木立に背を押し付けられた。
 手からぽろりとほうきが落ちて、蘭は逃れようと身をよじる。
 だがすぐに長虎が体を押し付けてくると、清冽な香りが漂ってきた。
それは澄みきっているが、どこか冷たい匂い――。
 だが蘭を貪る内にその冷たさは消え、甘い熱だけが長虎の体からは漂ってくることを知っていた。
それは皮肉にも長虎からお仕置きを受けていた時に気がついたものだ。
 冷たい匂いより、甘い熱が欲しい――。
 長虎の情欲の炎を宿した瞳を見て、蘭のつま先がジンと痺れる。
 艶めいた吐息が耳にかかり、すぐさま蘭の太ももは割り広げられた。
ファスナーが勢いよく下半身まで下ろされる間、長虎の甘い唇がついばむように何度も口づけられる。
 外気に肌が触れてぶるりと背筋を震わせるが、長虎が片足をつなぎから強引に抜き出し、高らかに持ち上げた。
「寒いならすぐに熱くしてあげるから」
 長虎の手が秘丘に添えられ、茂みをやんわりとショーツ越しに揉み込む。
「……長虎様っ……止めてくださいっ……」
 抵抗しようにも剣術の鍛錬を欠かさない長虎の力に敵うはずもなく、胸を叩いても押し返すことが出来ない。
「覚えが悪いペットだね、君は。そうか、あの程度のお仕置きじゃ分かっていないのかな。それは僕が悪かった」
 焦らすように秘裂をショーツ越しになぞられ、段々と体が熱く火照ってくる。
長虎の指の固さや形を思い出し、腰がぴくぴくと軽くくねってしまった。
「思い出してきたかな。そう、この指で君の肉襞を散々、弄ってお仕置きしたんだ。今日も形や固さ、動きまで覚えてもらうよ」
 長虎はあの夜をわざと思い起こさせて、ショーツ越しにさわさわと優しくなぞる。そんな焦れったい動きではなく、もっと激しく動かして欲しくなり、蘭の息は熱い潤いを帯びてきた。
「駄目っ……長虎様っ……こんなことっ……」
 背徳感が募り蘭は抵抗を見せるが、それとは反してじゅくりとショーツ越しに蜜が泡立つ。
「そうは言っても体は覚えているみたいだね、僕の指の形を。いやらしい指の動きを。節くれだった固さを。思い切り、喘いでいいんだよ。この庭は入るなと人払いしているから」
 長虎はぐっと蜜壷にショーツを埋めて、くちゅくちゅと音を立てながら押し揉んだ。
「ほらっ……濃密でいやらしい匂いがしてきた。分かるかい。もう直接、指が欲しそうだね」
 濡れて張り付いたショーツを横にずらされて、粘った蜜を陰唇全体に塗りこまれる。
てのひらをぴとりと押し付けたまま、ちゅくちゅくと音を大きく立てて女陰を強く押し回された。
長虎のてのひらに大きく揉まれるたび、淫芽も擦られて快感に飲み込まれそうになる。
「凄い……手に君の花びらがぴとりと吸い付いて……この中もひくひく動いているのかな……」
 長虎の重ねた二本の指が容赦なく蜜壷にねじ込まれ、侵入を阻もうとする膣肉を掻き分けながら、奥へ進められる。
「あっ……ンっ……」
 勢いよく突き入れられて驚いたのか、中が分かるほどにひくりとわなないた。そのまま根元までずぷりと埋め込まれて、二本の指をぬちぬちと大きく押し回される。襞を掻き回されて、蘭は持ち上げられたままの腿がふるふると快感で震えた。
「僕の指はどんな動きをしているかい? 押し返そうとしてくる肉襞を解そうと……こうやって……掻き回しているのが分かるかな……ほらっ……もっと……動かしてあげるから……」
 根元まで埋められた指が重ね合わさった襞を大きく掻き回し、爪先が奥を掠め取るたびに、疼きが湧き上がり脳が痺れ始める。
「はっ……激しいっ……そんなに……掻き回さないでください……っ……」
「……分かった……じゃあ、動きを変えようかな……」
 掻き回されていた指が今度は緩急をつけた抜き差しに変わり、蘭はめくるめく快感に身を堕としていく。
「どうかな、こんな風にゆっくり、いやらしく抜き差しされるのは……」
 長虎の指がねっとりとした動きになり、濡れ襞を引き伸ばしては、ねじ回すように一気に奥に突き立てる。ジンと膣奥が疼いてもっと深く突いて欲しくなった。
「長虎様……もうっ……止めてっ……ンっ……」
 長虎が艶を帯びた吐息を漏らしながら、蘭を責め立てる様子はどこか耽美であった。
 いつの間にか肌寒さも忘れて、長虎の甘い熱に酔いしれてくる。
「僕の指にじっくり焦らされると……奥がひくひくといやらしく蠢いているよ……僕も……もうっ……限界かもね……」
 ごくりと長虎の喉が大きく鳴る様も妖艶で、頬に張り付くしっとりとした髪の毛さえもなまめかしい。
ぼうっと絵のような美しさの長虎に見入っていたが、急に現実に引き戻された。
 長虎が着物を割って、大きくいきり勃った肉棒をずるりと引き出したのだ。
「あっ……!」
 その逞しく怒張した雄を見せつけられ、ジンと膣奥が震える。
「これでもっと君を躾してあげるから……」
 大きく張った切っ先が陰唇の入口に押し当てられた瞬間に、蘭は夢から覚めて一気に怖くなった。
「お願いしますっ……長虎様っ……それだけは勘弁してください。ごめんなさい、許して……」
 泣き出しそうな顔で懇願する蘭を見て、長虎はハッと覚めるように大きく目を見開いた。戸惑うような眼差しを滲ませて、艶を含んだ唇を動かせる。
「……誰かに操を立てているのかい?」
 一瞬で志紀のことを思い浮かべ、悲しげに顔を歪ませる蘭。それを見て、長虎はますます苦しげな色を瞳によぎらせた。何かものいいたげに唇がわななくが、長虎はすっと蘭から離れて着物を整える。
「……今日のお仕置きはここまでにしよう」
 長虎は一言だけそう述べると、くるりと背を向けて静かにその庭を去っていった。
 潤いを帯びていた熱は冷えて、急速に体が寒くなっていくのを感じながら、蘭は寂しげな長虎の背中をいつまでも見つめていた。









 





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