河畔に咲く鮮花  

第三章 三十七輪の花 1:三人の淫靡な艶事《1》


  月が満ちる夜―― 

 今日の昼にまた義鷹が人魚の里を訪問して、蘭と一時間ほど話をして戻って行った。
 この里では食べられないような上等なお菓子を持ってきてくれて、志紀達にも渡して欲しいと頼まれた。
 そのほかに、洋服や蘭が普段はしないようなネックレスや、指輪をプレゼントしてくれたり。
 さすがにアクセサリーはする時がないので、着れそうな洋服だけありがたく着てみる。
 いつも色気のない作業着のズボン姿だし、義鷹が来る時ぐらいは綺麗な洋服で出迎えた方がいいかもしれない。
 彼は貴族でもトップの座に就く、蘭などでは手に届かない高貴な人だからだ。粗相があれば、この里に不幸が訪れるかもしれない。義鷹ほど優しい人なら、そんなことはしないだろうが、とにかく最善の注意は必要だ。
 蘭は義鷹からいただいた洋服を着て、アユリの元へ向かう。話があると言われて、蘭は暗い廊下をひたひたと歩いていた。
 夜も遅いのに、なんの用であろうと、蘭は若干不安を抱えたまま呼び出しをされた通りに行く。
 アユリが待っている部屋には、覚えがあった。
 忘れもしない、アユリが血を飲んで、真紀子との行為を蘭が見てしまった部屋。
 他の部屋にはない鉄格子がはめ込まれて、室内にいる人間を逃がさないようにしていた。
 確かアユリはこの部屋でいつも、衝動を抑える為にこもっていたと言っていた。
 簡単に飛び出せてしまいそうな窓では、アユリは外へ出てしまい、里の娘に我も忘れて襲っていたかも知れない。
 そのような部屋に呼び出されて、蘭は少しばかり胸がざわめいた。
――なぜなら、今日は満月の夜だから
 アユリの性的興奮が高まり、射精衝動が抑えが効かない日だ。
 祭りの夜から、アユリはその性的興奮は抑えがきいていたように思える。
 必要以上に蘭に迫ってはこなかったし、普段と何一つ変わりはなかった。
 だが久しぶりに、満月の夜に呼び出しをされて普通に帰してくれるわけはないだろう。
 蘭はどきどきとする胸を押さえながら、あの部屋へと足を運んだ。
 室内はあのときと同じように、キャンドルが焚かれ、鉄格子の窓だけが開いている。
 月が満ちて、室内を明るく照らし出していた。
 甘い香りがたちこめていて、蘭は一瞬だが、目眩を起こしそうになる。
 なんの、匂いだろう――甘くて脳が痺れる
 蘭はぼうっと突っ立って、その香りを深く吸い込んでしまった。
「蘭姉ちゃん、こっち来て――」
 その中で、甘い囁きが蘭に届いてくる。
 視線を巡らせると、天蓋ベッドのカーテンがゆらりと揺らめいた。
 アユリの声に誘われるまま、蘭はふらふらと甘い香りを身に纏い、ベッドまで歩いて行く。
 そっとカーテンを捲ると、力強くアユリに引っ張り込まれる。
「あっ――!」
 勢い余って、どさりと蘭はふかふかのベッドに身を沈ませた。
 そこにアユリが重なって、蘭を組み敷く。
「アユリ――」
 アユリはすでに上半身は裸で、下もズボンを脱ぎ捨て下着姿だけである。
 月明かりを浴びたなめらかな体は、美しく清らかだ。
 はぁと艶を帯びた吐息を漏らして、蘭を潤んだ瞳で見下ろしてきた。
「蘭姉ちゃん――ごめんね」
 またアユリの悲しそうな声が降って来る。
 豊穣祭の夜もあの彼岸花の赤い野で同じ言葉を囁かれた。
「とりあえず、そのひらひらした服を脱がすから」
 悲しげな声音はがらりと変わり、すぐさま怒りを帯びた口調になる。
 アユリは有無も言わさずに、脱がすという行為より乱暴に服を引きちぎり始めた。
 繊細で質感の良いリボン付きのブラウスは、アユリの力によって、左右に引き裂かれる。
 ボタンを弾いて、蘭はブラジャー姿になり、その激しさに驚きながらアユリを見上げた。
 だがアユリは満足していないのか、今度はふわりと広がる柔らかいスカートを剥ぐようにして、脱がす。
 下着姿だけになった蘭を見て、アユリは興奮の情熱の中に冷たさを滲ませた。
「……その下着もあの義鷹っていう貴族からの?」 
 低く冷たい声音で囁かれて、蘭は思わず手で胸と下肢を隠す。
 アユリの言う通りに、実は洋服と一緒に、下着までプレゼントされていたのだ。
「あいつもよっぽど、蘭姉ちゃんのここに挿れたいみたいだね」
 アユリの手が蘭の腕を掴み、下肢から剥がして、ショーツを食い入るように見つめる。
 確かに普通のショーツとは違った。シルクのショーツは履き心地も良くて、肌にぴとりとフィットする。
 だが、違うのは局部を隠すところが、ほぼ透けていて、お尻も真ん中の割れ目に紐が食い込んでいるだけだ。
「こういうの、Tバックっていうの知ってる? エロい下着履いてさ、あの貴族にも見せたの?」
 アユリがしなやかな指で、蘭の秘部をぐっと押して、ショーツを蜜壷の中に埋めた。
「ンッ……アユリ――」
 身をよじらせ、太ももを擦り合わす蘭を見て、アユリははぁと荒い息をこぼす。
 ショーツは秘部に食い込んだまま、割れ目をくっきりと浮かび上がらせていた。
 興奮で先端を尖らせた淫芽が、包皮から覗き、ショーツにつんと形を張りつかせている。
「すご……エロい……ねぇ、こんな透け透けのを見てさ、あの貴族も喜んだ? だって、あそこが丸見えになっているよ」
 アユリははぁはぁと呼吸を乱しながら、義鷹のことを執拗に聞いてくる。
「そんなことしない……義鷹様は、そんなこと……」
 蘭はそこまで言って、またくらりと脳が痺れる感覚に陥る。
「蘭姉ちゃん、効いたきた? この麝香(じゃこう)
 アユリが悪びれもなくそう言い、初めて蘭はこの香りが麝香ということを知る。
「この香りを嗅ぐとね、気持ちよくなって、高揚感に包まれるんだ。俺が、秘密クラブで売られていた時に良く使われていたもの。余っていたから、拝借してそのままにしておいたんだけどね。今日は特別だから、使用することにしたんだよ」 
 アユリの瞳に情欲が宿り始め、白い頬を赤く上気させた。
「特別って……どういうこと?」
 麝香の香りに酔いしれながら、蘭自身も体がむずむずしてくる感覚を覚える。熱くなり、下肢に食い込んだショーツがじゅくりと泡立ってきた。
 呼吸もにわかに乱れて、下着が肌を擦るだけで気持ち悪くなる。
「もうすぐに分かるよ……あっ、来たみたい」
 かちゃりとドアが開く音がして、アユリは僅かに顔をねじった。
「――アユリ、どうしたのだ? もしかして血が飲みたくなったのか」
 蘭は痺れる脳が一瞬だけ冴えて、その声の持ち主の方向に視線を巡らせる。
 その凛とした涼やかな声は、紛れもない志紀のもの。
「志紀、ドアを閉めてここまで来て」
 アユリが志紀をベッドまで誘導するが、蘭は身をよじった。
 このような下着姿のまま、アユリといることを見られては、どう思われるだろうか。
 だけど、すぐに麝香の香りが細部に渡り、考えを弛緩させる。
そっとカーテンを開け放った志紀の手が止まり、驚きの表情でアユリと蘭を見下ろした。
「蘭……アユリ……なにをして……」
 志紀はそこまで言って、大きく息を吸い込んでしまったのかくらりと体を揺らせる。
 そして、軽く頭を振って、意識を冷静に保とうとした。
「志紀も効いてきた? この麝香は特性でさ。改良されて凄い媚薬の効果があるんだよ」
 アユリにこの香りのことを聞かされ、志紀は大きく目を見開く。
「なにがしたい……アユリ?」
 志紀はつとめて冷静に問うと、アユリはすぐさま不服そうに蘭に視線を戻した。
「見てよ、志紀。そこに散らばった服は昼間に来たあの貴族の男からの貢物、それに、あんな下着まで貰ってさ。あいつの下心なんてみえみえだよ」
 アユリが先ほどから苛々しているのは、どうやら義鷹からのプレゼントに腹を立てているらしい。
 志紀は眉をひそめると、ベッドの周りに散乱した服を見て、次には仰向けのまま寝ている蘭に視線を巡らせた。
 麝香の香りが効いている蘭はもじもじと体を擦り寄らせて、白い肌はすでにほんのり桜色に染まっている。
 そして、透けているショーツに目を向けて、志紀は明らかに情欲の炎を瞳に宿したのだった。







 





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