河畔に咲く鮮花  

第三章 三十四輪の花 3:稲穂との夜


 ともは風呂に入って、酒を抜いたがまだ微かに残っている状態で、ベッドに寝転がる。
 ガウンだけを羽織って、すぐにでも脱ぐことが出来るようにした。
 稲穂はベッドの隅でちょこんと正座して座って、顔を俯かせている。
 彼女は緊張しているのか、同じくガウンに身を包み落ち着きなく視線を彷徨わせていた。
 それでもいつまでもこうしていては、時間が過ぎてしまう。
「ねぇ、こっちおいでよ」
 そう呼びかけたが、ともは思ったより自分が興奮していないことに気がつく。
――どうして、こんなに僕は落ち着いているのだろう
 のろりと緩慢に近づいてくる稲穂から視線を外して、違うことをぼんやりと考えていた。
 そこで、ベッドの横に設置されたローテーブルに蘭の花が活けられた花瓶を見て、一つスッと手に取った。
 香りを吸い込み、むせかえる蘭の花の臭いに酔いしれる。
――いい香り……溺れそう
 おずおずと寄って来た稲穂に、ともは残酷な言葉を投げ放った。
「ごめん、悪いんだけどさ。勃たせてくれない?」
 稲穂が目を大きく開き、驚きを刻んでいるが仕方がない。
 ともの肉茎は反応するどころか、まったく機能していなかった。
 このままでは、できるものもできない。
 ともは稲穂の返事も聞かないまま、しゅっとガウンの紐を解いて、体を晒す。
 稲穂はともの綺麗な体に見惚れているようで、ぼうっとそこで動きが止まっている。
「ごめんね、取りあえず手と口でやって」
 ともの冷めた声の響きに稲穂は我に返ると、ようやくおずおずと下半身に顔を埋めた。稲穂の柔らかい唇が、ともの肉径に触れて、口に含まれる。
 まだ勃っていない肉茎を必死で、暖かい舌で舐めてくれるが、やはり反応しない。
――僕って……かなり重症だな
 疲れているのだろうかと思い、下肢に神経を集中させるが、思い通りになってくれない。
――もしかして今日は駄目かも
 出来なければ出来なくてもそれで良かった。
 今日は無理だと断ろうとしたところ――
 ふと視線を落として、下肢にうずくまる稲穂を見ては、その角度が蘭に似ていると気がつく。
――蘭おねーさん?
 そう思うと、どくんと肉茎が脈動して、いきり勃ってきた。
「ぅっ……くっ……」
――蘭おねーさん……やばいよ……興奮してきた……
 ようやくその気になってきて、ともは腰を揺さぶりながら、手に持った蘭の花を吸いこむ。
――ああ、蘭おねーさんに包みこまれているようだ
 甘く濃いほどのむせかえる香りが、ともの脳を甘く痺れさせる。
「いいよ……そのまま……もっと……強く……はあっ……」
――蘭おねーさん、もっと咥えて
 似た角度での稲穂を見ながら蘭の花を嗅いで、これは蘭だと錯覚させた。  
 そう思うと、どんどん稲穂が蘭に見えてくる。
 激しく吸引しているのが、蘭だと思うと、ともの興奮は昂ぶってきた。
「そうっ……ンッ……もっと舌を使って……いいよ……くっ……」
――そうだよ、いいよ蘭おねーさん。とても気持ちいい
 ともは情欲を帯びた吐息を漏らし、口で抽送を繰り返す稲穂に視線を落とす。
――ああ、蘭おねーさん、僕のをそんなに咥えて……エロいよ……
 蘭があんなに激しく舌と口でシテくれている。
「ぁっ……くっ……いいよ……もっと……奥まで……僕のを飲み込んでっ……ぁっ……くっ……」
 倒錯的な甘い痺れが全身を駆け抜けて、徐々に高まりが強くなってきた。
 公務ばかりで忙しかったともは、最近自分でする暇もない。
 久しぶりの快感に身を投げて、蘭の花の香りを嗅ぎ続けた。
「そう……いいよ……ああっ……そんなに……されたら……いい……っ……ぁっ……」
 いつの間にか自分も腰を大きく揺さぶり、高みに昇ろうとする。
 ぬるりとする粘ついた舌が、ともの肉茎を這いずり回った。
――そう、その調子だよ。蘭おねーさん。イっていいよね? 
 心の中でそう問いかけて、ともは一層腰を激しく揺さぶった。
「ねぇ……もうイクよ……イクからっ……もっと、激しく口で扱いてっ……ああっ……くッ……」
 ともの掛け声で、稲穂は強く吸引しながら、肉茎を口で上下に抽送し始める。
――そう、そのまま……いいよ……
 その動きに合わせて、ともは腰を大きく揺さぶり続けた。
「あぅっ……あ……もう……出る……ああっ……イク……出すよ……口の中にっ……ぁっ……くっ……はっ……っ」
――出すよ、蘭おねーさん! 全部を受け止めて
 ともは腰を突きあげて、稲穂の喉の奥まで肉茎を穿ち、存分に雄の精を放つ。
「あっ……くっ……」
 ぶるぶると腿が震えては、長い放出に身を投じ、甘美な余韻に浸った。
――凄い……気持ち良かったよ……蘭おねーさん。ああ、愛している……やっぱり……僕はずっと…… 
 全てを吐き出した後で、ともはぱたんと腕をシーツの上に落とした。
 じわりと滲む汗を拭いて、のろりと体を起こすと、現実に戻る。
「――ありがとう、気持ち良かった」
 もう目の前の稲穂は蘭ではない。
――終わっちゃった……蘭おねーさんとの甘い世界が……
 放出した後ではなおさら、気持ちが冷えていくのが分かった。
――やっぱり駄目だ……一緒に寝ることが出来ない……
「寝ていきたいけど、仕事を思い出しちゃった。ごめんね、このまま本家に帰るよ」
 ともはサッとガウンを着て、稲穂をそのままにして、シャワー室へと消える。
――悪いね、稲姫……だけど僕ははっきりと分かったよ
 とものつれない態度を見て稲穂は顔を俯かせると、長い溜息を吐き出す。
――蘭おねーさんしか僕は愛せない
 深い溜息が聞こえたが、ともは振り向くことなく、稲穂の前から立ち去ったのだった。
 その胸には、この手からこぼれて消え去った蘭のことだけを想って――






 





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