河畔に咲く鮮花
第三章 三十輪の花 1:ともの花嫁候補《1》
秀樹がナンパをしては、次々にパーティルームに淑女達を案内している。
いつの間に、ベルボーイみたいになっているんだか。
豊臣秀樹が声を掛ければ、女達は断ることはしない。
当り前か。今は御三家ではなく、二家になってしまったけど、豊臣家は思ったより損失が少なくいつも通りに機能をしている。
揺るがない基盤を持つ、絶対王者の豊臣の後継ぎの誘いを断る方がおかしいのだ。
秀樹の親は健康そのもので、活気に満ちている豪快な人だ。
その為に、まだまだ秀樹に当主の座を譲る気はないらしく、当の息子はあちこちで、ちゃらちゃらと遊んで過ごしている。
俺が爺さんになるまで、当主やってて欲しいわ、などと秀樹がこぼしていたこともある。
本音はただ単に面倒くさいと言うのが理由だ。
そこだけはともも秀樹の意見に賛同はする。
実際、徳川の当主になっただけでも忙しいのに、覇王にまでなってしまうと睡眠時間が大幅に削られていた。
もう少し慣れれば、お時間は取れるでしょうと秘書の徳山は安易に言ってのけたが。
自分ばかりでしようとせずに、もっと下の者を上手く使うので
す、と白髪を撫で上げてそうもつけ加えていた。
さすがはともが生まれた時からお目付け役兼お守りとして付いているだけのことはある。
今でもたまに徳山には頭があがらないこともしばしばだ。
その徳山が気を回して、今回の花嫁候補を選ぶパーティを主催したことは、いい迷惑である。
――だって、僕の相手は蘭おねーさんだったから
徳川の当主になって、嫁を取ると言ったのは、裏を返せば蘭をいただくと示唆していたのだ。
わざわざ仲人して欲しいと嘘を言って安心までさせたのに。
本玉寺で覇王の記を奪ったと同時に、蘭も奪う気でいた。
なのに、明智光明のせいでこんなことになってしまった。
――絶対にあいつだけは許さない。
ふつふつと怒りを感じて、ともは憎き光明の顔を思い浮かべた。
――ああ、それと伊達もどうするか考えないと
ともは思い出したように、別宅の地下牢で繋がれている伊達政春の処置を考えた。
――謀反の刑で処刑。表向きはそれでいいか。本当は蘭おねーさんとヤッたことが一番腹ただしい。
そこで、ふっとともは嘲る笑いを漏らす。
自分がここまで嫉妬深いとは思いもしなかった。
覇者や貴族の世界では、横取りや夜這いは当り前。
蘭が伊達に誘拐された時点で、こうなってもおかしくはないのだ。
それに怒りを感じるとは――我ながら呆れる。
だけど仕方がない。
この人生の中で、心も体も奪われた女性は蘭だけなのだから。
物思いに耽っていたところ、秀樹が顔の目の前でぱたぱたと手を振ってくる。
そこでともは現実に戻り、甘く切ない思い出を邪魔されてむっと顔をしかめた。
それでも秀樹には関係がない。自分のしたいことをして、思うように行動するだけだ。
「結構、集まったで。パーティルーム。もう、みんな酒飲んで、ジャグジープールで泳いでる。主役がおらな始まらんから、行こ」
るんるんとスキップしながら、ともを引っ張って行く秀樹。
誰の家だと思っているんだか。
ともはそう考えたが、秀樹相手にそんなこと言っても無駄だと悟り、仕方なくパーティルームに重い足を運んだ。
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