河畔に咲く鮮花
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どうしよう、大変なことを聞いちゃったわ。そう言った真樹子にアユリは必死で口止めをした。
「絶対に言うなよ、志紀にもだ」
志紀にも言うなって、そんなこと出来るかしら――。
真樹子は複雑な顔をして、茫然と突っ立っている義鷹を見つめた。
「もう、里へ戻ろう」
そう促したアユリの心も内心穏やかではなかった。
ちょっとした好奇心で、公人と義鷹の後を尾行してしまったことに後悔する。
あんな話を聞くんじゃなかった。
トップシークレットの話を聞いてしまい、アユリは深い溜息を吐き出してしまう。
ちらりと見た真樹子の横顔もいつもより暗く沈んでいる。
こいつ、このまま蘭姉ちゃんの前でも自然にいられるのか?
アユリの中に疑問が湧くが、実際に自分も思いがけない事実に心が沈んだ。
こんなことが、志紀にばれてしまえばもしかしてこの里から追い出すかもしれない。
志紀は外界からの禍いを最も嫌う。
この里を守る為に――いくら蘭が好きでも決断を下すことも考えられる。
志紀が決定すれば、誰も逆らえる者はいない。
それはアユリも痛いほど分かっていた。
――嫌だ、蘭姉ちゃんと離れたくない
だから志紀には言ってはいけない。
この秘密は永遠に心の中に留めておこう――。
それに――
公人と蘭姉ちゃんは姉弟ではない。
公人は蘭の警護役と言うのだ。
しかも、蘭はあの失脚した織田信雪という覇王の花嫁。
信じられない。
こんなの悪い悪夢だ。
テロ犯ではないけど、実際に巻き込まれた張本人だったとは。
何か秘密を抱えているとは、公人を見ていて分かってはいたけど。
まさか、覇王の花嫁だったとは。
そんなことは想像もしていないほどで、アユリの想像を遥かに超えていた。
あの、覇者の世界に身を置き、暴君と噂された覇王の妻であった蘭はどれだけの辛酸を味わってきたのだろう。
実際に暗殺されかけて、あの川に流れ着いてきた。
本玉寺から距離はあるものの、爆破されたことは知っている。
傷つき絶望した蘭は記憶を失っていた。
多くの覇者達に利用され、駒にされては、傷つき蝕まれるクィーン。
「蘭姉ちゃん……」
アユリは記憶を取り戻さない蘭を思うと、胸が軋むように痛んだ。
そんな悲しい理由があれば、記憶を失っても不思議ではない。
「俺もナイトになるよ」
アユリはそう小さくこぼして、愛しい蘭の元へ走って行った。
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